3.猫とトライアングル

9/28
前へ
/290ページ
次へ
 一色君は財布を尻ポケットに押し込むと、私を振り向き、 「マジ、サンキュー。もしかして君って、猫と話せるの?」 興味津々と言った様子で問いかけた。 (そんな風に財布をお尻のポケットに入れるから、落とすんじゃないのかな)  私はちらりとそんなことを思ったが、口には出さず、俯きがちに「はい」と言って頷いた。 (猫と思い切り会話してるところ見られたし、今更、誤魔化せないし……)  変な子だと思われるだろうな、と思ったが、一色君は意外にも、私の返答に、 「マジ?すげぇ」 と目を丸くした。  子供がテレパシー能力者を見るようなキラキラしたまなざしで見つめられ、私は気恥ずかしくなり、彼の視線を避ける様に俯いて、トートバッグから猫用のおやつを取り出した。封を開け、細長いパウチのまま差し出すと、猫は素早い動きで飛びついて来る。 「君って、いつも猫の餌持ち歩いてんの?」  一色君が、餌を食べている猫と私を見比べながら問い掛けて来たので、こくんと頷き、 「……本当は、野良猫に餌をやっちゃダメなんでしょうけど、こうして助けてくれた時とか、どうしてもお腹が空いて困っていそうな時とかにあげられるように、カリカリとおやつは常備しています」 生真面目に答えたら、彼は「へえ~」と感心した声で相槌を打った。 「さっきも、猫に人間の食べ物を与えるなー、って言ってたもんな」 「人間の食べるものには、猫が食べたらいけないものとか、調味料とかも入っているので、あげない方がいいです」  とはいえ、大学をうろうろしている様子のこの子は、きっと学生から色んな食べ物を貰っているだろう。
/290ページ

最初のコメントを投稿しよう!

324人が本棚に入れています
本棚に追加