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おやつを食べ終えた猫は、顔を上げると、私の足元に近づき、体をくねらせて足にすり寄った。
『ごちそうさま。食べ物をくれるなら、また助けてあげてもいいわ』
「ニャー」と鳴いて階段を駆け下り消えて行った猫を見て、一色君が、
「何て言ったの?」
と尋ねて来たので、
「また何かあった時は助けるから食べ物ちょうだいね、だそうです」
私は猫の言葉を彼に伝えた。一色君が「現金な猫だな」と言って笑う。そして、
「猫のおやつってわけじゃないけど、俺も君にお礼がしたいんだけど」
と言うと、しゃがむ私に手を差し出した。立ち上がるのに手を貸してくれようとしているのかなと思ったが、今日会ったばかりの男子の手を取るのは恥ずかしかったので、あえて自ら立ち上がると、私は皴になったスカートを払って整えた。
「お礼なんていいのに」
「私は何もしていません」と言ったら、一色君は、行き場をなくした手を下げ、頭を振った。
「猫と意思疎通してくれたし、弥生さんのおかげで財布見つかったようなもん。弥生さん、マジですごいね。俺も猫と話してみたいなぁ」
心底羨ましそうに目を輝かせている一色君に戸惑いを覚えながら、恐縮して首を縮める。
「別にすごくないよ」
「なんでもおごるよ。好きなもの言って」
「私、大したことしていないし……」
「いや、でも、財布見つけてくれたのは事実だし」
「見つけたのは猫だし……」
「いーや、いいからおごらせて」
押し問答の末、固辞し続けられなくなり、私は根負けして頷いた。
「それなら……」
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