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「ご、ごめんね。一色君。変なこと言われて……」
私の彼氏だなんて誤解を受けて、気を悪くしているだろうと思い、おずおずと謝ると、一色君は厳しい顔をして、
「もしかして、君、さっき講義あったの!?」
私の肩を掴んだ。
「う、うん。あった、けど……」
急に近づいた距離に驚き、思わず身を固くする。一色君は、他人との距離感が近いような気がする。
「別に、構わない……よ」
男子に触れられ慣れていないので、どきどきしながら答えると、一色君は私の肩から手を離し、ぱんっと顔の前で両手を合わせた。
「マジか……!悪い。財布探しに付き合わせてゴメン!」
申し訳なさそうに頭を下げる。
「大丈夫。出席取らない先生だし……ノートも誰かに見せてもらえばいいので」
「本当に?」
心配そうな一色君に向かって、「はい」と頷く。私は大学にほとんど友達がいないので、本音を言えば、見せてもらえるあてなどない。さっきの浜中さんが、かろうじて少し話しかけてくれるぐらいだ。
(浜中さん、ノート見せてくれるかな……。でも、そんなに仲良くないから、頼みづらいなぁ……)
けれど、申し訳なさそうにしている一色君を、これ以上心配させたくなかったので、私はもう一度、
「大丈夫です」
と言うと、にこっと笑って見せた。すると、
「お汁粉」
一色君が、真面目な顔で言った。
「お詫びに、お汁粉もう1本おごる」
「えっ、本当?嬉しい。ありがとう」
私は、今度は素直にお礼を言って、一色君の好意に甘えることにした。
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