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一色君と財布探しをした翌日、西側広場横の食堂に行くと、
「あ、弥生さんじゃん」
後ろから声を掛けられた。振り返ると、昨日も会った一色君が、人懐こい笑顔でこちらを見ていた。
「今から昼ご飯?」
「うん」
「俺も」
一色君が手に持つトレイには、1日限定30食のローストビーフ丼が乗っている。
「ひとり?」
「うん」
再度頷くと、一色君は「そうなんだー」と言った後、間髪を入れず、
「じゃあ、俺らと一緒に食べようよ」
と言った。
「えっ?」
思いがけない誘いに戸惑っていると、一色君は、
「俺ら、あっちのテーブルにいるから、後で来て」
そう言い残して、さっさとレジへ行ってしまった。
「あの、ちょっと……俺らって、誰…………」
問い掛ける間も、断る間も無かった。
仕方がないので、私は竜田丼を購入した後、困惑したまま、一色君が指し示した場所に向かった。
(誰かと昼ご飯を取るなんて、いつぶりかな。入学したての頃は、昼ご飯に誘ってくれた子もいたけど、私が会話が上手じゃないから、そのうち誘ってくれなくなったんだっけ……)
1回生の時の黒歴史を思い出し、内心で苦笑する。
(私も、気をつかいながらお話をして食べるより、ひとりの方が気楽だったから、別に良かったんだけどね)
決して強がりでは……ない。
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