3.猫とトライアングル

14/28
前へ
/290ページ
次へ
 一色君と財布探しをした翌日、西側広場横の食堂に行くと、 「あ、弥生さんじゃん」 後ろから声を掛けられた。振り返ると、昨日も会った一色君が、人懐こい笑顔でこちらを見ていた。 「今から昼ご飯?」 「うん」 「俺も」  一色君が手に持つトレイには、1日限定30食のローストビーフ丼が乗っている。 「ひとり?」 「うん」  再度頷くと、一色君は「そうなんだー」と言った後、間髪を入れず、 「じゃあ、俺らと一緒に食べようよ」 と言った。 「えっ?」  思いがけない誘いに戸惑っていると、一色君は、 「俺ら、あっちのテーブルにいるから、後で来て」 そう言い残して、さっさとレジへ行ってしまった。 「あの、ちょっと……俺らって、誰…………」  問い掛ける間も、断る間も無かった。  仕方がないので、私は竜田丼を購入した後、困惑したまま、一色君が指し示した場所に向かった。 (誰かと昼ご飯を取るなんて、いつぶりかな。入学したての頃は、昼ご飯に誘ってくれた子もいたけど、私が会話が上手じゃないから、そのうち誘ってくれなくなったんだっけ……)  1回生の時の黒歴史を思い出し、内心で苦笑する。 (私も、気をつかいながらお話をして食べるより、ひとりの方が気楽だったから、別に良かったんだけどね)  決して強がりでは……ない。
/290ページ

最初のコメントを投稿しよう!

324人が本棚に入れています
本棚に追加