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「俺もここ座っていい?」
林先輩が一色君の隣の席を指さし尋ねると、一色君は、
「いいっすよ」
と軽い調子で言って椅子を引いた。椅子に腰かけながら、
「今度、新入部員歓迎の上映会するじゃん?どの映画にするか迷っててさ。一色、何がいいと思う?」
林先輩は、内輪の話を同じサークルの後輩に振った。一色君はそれを受けて、
「そうっすね。新しく入部した子たちに見せるんだから、一般受けするキャッチ―な1本がいいんじゃないんすかね」
「例えば」と言って、有名な洋画の名前を挙げた。
「いや~、それはお前、ベタすぎじゃねえの?」
林先輩は一色君の提案に肩をすくめる。
「最初からマニアックに走るより、ベタなぐらいがちょうどいいっすよ」
一色君と林先輩が映画談議に花を咲かせている間、今西さんは相槌を打ちながら、にこにことふたりの話を聞いていた。私は何も口を挟めず、居心地が悪くなってきたので、素早く竜田丼を食べ終えると、
「私はこれで……」
と、話の邪魔をしないように、席を立った。
食堂の外に出て、軽く息をつく。
(人付き合いは……苦手)
午後の講義がそろそろ始まる。
(移動しよう)
そう思った時、目の前をすっと何か黒い影が横切った。影を追って視線を向けると、黒い猫が立ち止まって、私を振り返っていた。
「あなた、昨日の美人猫さんね」
声を掛けると、
『辛気臭い顔してるわね』
猫は一声「ニャーン」と鳴いて、素早い動きで走り去って行った。
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