3.猫とトライアングル

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 柏木さんと橋の袂で別れた後、私はアルバイト先に向かって歩いていた。  私のアルバイト先は、『風音(かざね)』という名前の小さなカフェで、今出川通(いまでがわどおり)東大路通(ひがしおおじどおり)の交差点『百万遍(ひゃくまんべん)』の側にある。京都大学の近くで、賑やかな場所だ。  『風音』に着き、 「おはようございます」 と言って店内に入ると、店長である堂島皐月(どうじまさつき)が「おはよう」と笑顔を向けた。時刻は既に14時だが、この店では出勤時の挨拶は、いつも「おはよう」だ。  サラサラの黒髪をオールバックにポニーテールにしている皐月さんは、すらりとした長身で、まるでモデルのような美貌をしている。本人曰く「年齢は非公開」だそうだが、大学の同級生だったという家具職人の夫がいる既婚者だ。 「美咲さん、おはようございますぅ」  鼻にかかった声で、もう1人のアルバイト、愛田(あいだ)つかさが挨拶をした。つかさちゃんは今年の4月から入店した18歳のフリーターで、週4~5日のペースでシフトに入っている。いつも凝ったアレンジの髪形をしており、服もおしゃれで、地味を自認する私は、彼女の女の子らしさに、常々、感心していた。  ランチタイムも過ぎた時間なので、店は比較的空いていた。つかさちゃんは奥のテーブルで、賄いを食べているところのようだ。
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