3.猫とトライアングル

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 私は一旦更衣室に入ると、エプロンを付けてから店内に戻った。ちょうど、ふたり連れの女性客が入って来たので、水を持ってテーブルに向かう。 「いらっしゃいませ。こちらメニューでございます。何になさいますか?」  バイトを始めた去年の7月頃は、メニューを聞くこともしどろもどろだったが、今では慣れて、すんなりと言葉が出てくるようになった。 「あたしは、このチーズケーキとハーブティーのセットにするわ」 「私は、プリンと紅茶で」 「かしこまりました」  厨房にメニューを伝え、他の客の水を替えたり、食器を引いたりと立ち働いていると、 「美咲ちゃん、これお願い」 厨房から皐月さんの声が聞こえた。キッチンカウンターの上で、可愛らしくデコレーションされた皐月さんお手製のチーズケーキとプリンが、テーブルに運ばれるのを待っている。 「お待たせしました」  先ほどの女性達のテーブルに運ぶと、 「わあ、可愛い。ハーブティーの色も綺麗~!」 「プリンもイチゴが乗っていて、美味しそう」 彼女たちはスマホを取り出し、パシャパシャと撮影会を始めた。 「後でSNSにアップしよ」 「絶対『いいね』付くよ~」  楽しそうな女性たちの会話を聞きながら、 (SNSかぁ) 私は、先ほど出された柏木さんの宿題を思い出して、憂鬱な気持ちになった。  SNSは――怖い。  思いがけないことが拡散されてしまい、心無い言葉を浴びせられることもある。  柏木さんは、「参考までに、僕のアカウントを登録しておきますね」と言って、プライベートなアカウントを教えてくれた。そのこと自体は嬉しい。 (見る専門じゃ、ダメかな……)
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