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私が消極的な気持ちになっていると、賄いを食べ終えたらしいつかさちゃんの鼻歌が聞こえて来た。振り向いてみると、彼女は熱心にスマホで自分の爪の写真を撮っている。
「つかさちゃん、何してるの?」
近づいて行って尋ねると、
「今日のネイル撮ってまーす」
つかさちゃんはそう言って、私の方へ手を差し出した。つかさちゃんの爪は短いながらも綺麗に整えられ、レオパード柄のネイルアートが施されている。
「今日も凝ってるね」
感心半分、呆れ半分でそう言うと、
「でしょ?」
彼女は嬉しそうに、手をひらひらさせた。つかさちゃんはネイルが趣味なのか、いつもこんな風に、凝ったデザインの爪をしている。
私たちの会話に気づいたのか、皐月さんが、カウンター越しにキッチンから顔を出すと、
「つかさちゃんの爪は派手すぎ!ネイルするなとは言わないけど、飲食店なんだから、もっと大人しい爪にしてちょうだい」
と苦言を呈した。
「ええ~っ!今日のアートは、1時間かかった大作なんですよぉ~」
「いくら大作でも、レオパード柄はダメ。それに勤務中にスマホで遊ぶのもダメ」
皐月さんにピシャリと叱られて、
「店長のけち~」
つかさちゃんが頬を膨らませている。けれど、すぐに気を取り直したのか、私の方を振り返り、
「ねえねえ、美咲さん。後で美咲さんの爪もネイルしてあげる。美咲さん、地味だからぁ、爪ぐらい綺麗にしないとぉ」
さらりとひどいことをいいながら、提案してきた。すぐさま皐月さんが、「お店でネイルをするのはダメ!」と注意を飛ばして来る。
「ほんと、店長のけち~っ!」
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