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再び、つかさちゃんが頬を膨らませた時、からんとドアベルの音が鳴って、制服姿の女子高生が店の中に入って来た。長い黒髪をおさげにした真面目そうな雰囲気の彼女は、つかさちゃんの姿に気がつくと、はにかんだ笑顔を浮かべて、
「つかさちゃん」
と名前を呼んだ。
「美乃梨、今日も来たのぉ?」
つかさちゃんが若干うっとうしそうな声で、女子高生の名前を呼ぶ。
「うん。勉強、教えてもらおうと思って……」
美乃梨ちゃんはつかさちゃんの年下の幼馴染なのだそうだ。こうして時々店に来ては、つかさちゃんに勉強を見てもらっている。
「まだ、仕事中なんだけどぉ」
「終わるまで待ってる」
一番隅のふたり掛けのテーブルに座ると、美乃梨ちゃんはカバンから教科書を取り出した。私が水を持っていくと、会釈をして、
「紅茶を下さい」
と礼儀正しい口調で注文をした。
「もお、仕方ないなぁ~。あと1時間だから、ちょっと待っててぇ」
つかさちゃんは相変わらず鼻にかかった声でそう言うと、立ち上がって、気合を入れるようにエプロンの紐を結び直した。表面では面倒くさそうにしながらも、毎回きちんと美乃梨ちゃんの勉強を見ているので、軽く見えるようで、つかさちゃんは案外面倒見がいいのかもしれない。
私は自分が積極的に動いて、つかさちゃんの仕事が定時で終わるようにフォローしようと気合いを入れると、つかさちゃんと同じように、エプロンの紐をきゅっと締め直した。
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