4.美咲と北斗

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 私は過去の夢にうなされ、ハッと目を覚ました。  パジャマが汗でぴったりと体に張り付いている。 「…………」  動悸がする。私は、額を押さえて、脈打つ鼓動を収めようと、ゆっくりと息を吐いた。 (今、何時なんだろう)  明かりを付けて壁時計の時刻を確認すると、針は午前4時を差している。  窓の外はまだ暗く、起き出すには早い時間だったが、私はベッドから下りることにした。  湿ったパジャマから部屋着に着替えながら、北斗のケージに目を向ける。北斗は目を開けたまま、箱座りで眠っていた。  警戒心の強いうさぎは、目を開けて眠ることが多い。花や雪は、リラックスしている時、お腹を見せて横たわり、目をつぶって眠っていることもあるが、北斗は横になることすら稀で、いつも目を開けて眠っていた。今でこそ穏やかな性格で、私に懐いている北斗だが、引き取った当初は、とても臆病なうさぎだった。  私は、眠る北斗の側へ、そっと近づくと、 「北斗」 小さな声で呼びかけた。北斗は私の気配に気が付いたのか、すぐに目を覚まし、ほぼ動きの止まっていた鼻を、ひくひくと動かした。 「起こしてごめんね」  謝りながらケージを開けると、中に手を差し入れ、北斗の背中をゆっくりと撫でる。柔らかな毛の感触が気持ちいい。  北斗の温かな体温を感じながら、私は、高校1年の春の出来事を思い出していた――。 *
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