4.美咲と北斗

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 小学校から引き取った灰色のうさぎは、順調に回復していった。  それと同時に、私の心には、あの飼育小屋をあのままにしておけないという使命感が生まれていった。 (私に出来ることはなんだろう?)  とにかく、今すぐに出来ること。それは、あの不衛生な環境の改善だ。  私は小学校に連絡すると、飼育小屋の掃除を申し出た。無償で掃除をしてくれるのならありがたいとばかりに、小学校はあっさりと許可を出した。  一生懸命掃除をし、なんとか飼育小屋の中は清潔にするこが出来たが、次の目標は、その状態を維持することだ。   私は再び小学校に掛け合うと、飼育係の子供たちへ話をすることにした。  うさぎとはどういう生き物なのか、生態や習性、世話の仕方、など。  子供達は素直に私の話を聞き、口々に「頑張ってお世話をします」と約束をしてくれた。     けれど、子供達がいくら頑張ってくれても、オス、メス一緒の環境に入れられている内は、繁殖は止まらない。子供が生まれては死んでいく。餌は少なく、うさぎたちは常に気が立っている。ケガも病気も絶えない。大人のうさぎたちも死んでいく。それを見つける子供達の心も傷ついていく。  悪循環は続いた。  八幡先生はうさぎ飼育の為の予算が下りないと言っていたが、なんとしても予算を付けてもらって、飼育自体を改善してもらわねばならない。  私は何度も小学校に訴えたが、学校側は聞く耳を持ってくれなかった。 (こうなったら……!)  わたしは、集団に頼ることに決めた。飼育小屋の現状を記したビラを作り、小学校の前で配ることにしたのだ。  校門の前で下校する子供たちに声を掛けると、 「おうちに持って帰って、お父さん、お母さんに見せてね」 とビラを渡した。  ひとりでも賛同してくれる人がいた方がいいと思い、高校でもビラを配り、訴えて回った。地元の学生が多かったので、同じ小学校の出身者も多く、もしかすると、私と一緒に立ち上がってくれる人がいるかもしれないと期待していた。
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