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「美咲に何をするのよッ!」
凛とした少女の声が室内に響き渡った。次の瞬間、男の体が私の上から吹っ飛んでいた。慌ててパジャマをかき寄せ、起き上がると、足を上げた黒い髪の少年が、鋭い目で男を睨みつけていた。
「うさぎの脚力、舐めないでよね」
どうやら、彼が男を回し蹴りし、吹っ飛ばしたらしい。
「このっ!美咲にっ!ひどいことする奴はっ!許さないんだからっ!」
白い髪の少女が、男に向かって、手当たり次第に物を投げつけている。テレビのリモコンが頭にあたり、男は「ウッ」と声を上げた。
私は急いでベッドから立ち上がると、男から距離を取った。すかさず少年が駆け寄ってくると、私を庇うように前に立った。
(一体、この子たちは誰なの?)
突然、現れた少女と少年に戸惑っていると、今度は、ぬっと、大きな影が現れ、侵入者の元へと近づいて行った。窓から差し込む月明かりで、影の姿が浮かび上がる。精悍な顔立ちの大柄な男性は、男の首元を掴み上げると、つかつかと窓辺へと引きずって行き、
「お、おい、止めてくれ!ここは2階……」
男の制止の声も聞かずに、そのまま外へ放り投げた。
「うわぁぁ……!」
男の情けない声が響き渡る。
「ざまあみろだわ!」
少女が窓の下を覗き込み、吐き捨てた。その隣で少年が、
「2階から落とされたぐらいじゃ、死なない」
と冷たい声で言う。その言葉を受けて、
「死ねばいいのよ!」
少女が過激なことを言った。
「……大丈夫か?」
一連の出来事に腰が抜けて、その場にへたり込んでしまった私のところへ、大柄な男性が近づいて来ると、私に手を差し出した。顔を見上げると、窓から差し込む月の光で、彼の髪が銀色に輝いて見えた。
落ち着いたまなざしに見覚えを感じ、私は、脳裏に浮かんだ名前を口にした。
「……北斗?」
銀髪の男性――北斗は、無言のまま頷いた。
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