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(柏木さんとデート……どうしよう、何を着ていけばいいんだろう……)
柏木さんと別れ、アルバイトに向かったものの、アルバイト中、私の頭の中は、来週の日曜日のことでいっぱいだった。
「あの、すみません。これ、注文したものと違うんですけど……」
客に声を掛けられ、ハッと我に返った。慌てて伝票を確認すると、チーズケーキと抹茶ムースを間違えて提供してしまっている。
「申し訳ありません。すぐにお取替え致します……!」
慌ててチーズケーキを運び、抹茶ムースを下げた私に、
「美咲さん、どうしたんですかぁ?今日はなんだかおかしいですよぉ?」
つかさちゃんが小首を傾げて問い掛けて来た。
「あ、えっと、何でもないよ」
誤魔化すように笑顔を浮かべ、首を振る。
今日のつかさちゃんは、ドット柄の黒のワイドパンツに、アシンメトリーな襟元のカットソーを合わせている。
(今日もお洒落)
「つかさちゃんって、いつも可愛い服着てるね」
感心して褒めると、つかさちゃんはぱちぱちと目を瞬いた。
「急にどうしたんですかぁ?美咲さんって服とか興味なさそうなのにぃ~」
「興味がないわけじゃないけど……」
ただ、どんな服を買っていいのか分らないのだ。
「ええ~?美咲さんの服って、いつも黒か白かベージュじゃないですかぁ?地味ですよぉ」
つかさちゃんは、相変わらずさらりとひどいことを言う。地味と言われ、私は情けない気持ちで苦笑した。
「そう?」
すると、つかさちゃんは、唇に指をあててしばらく考え込んだ後、
「じゃあ、あたし、美咲さんの改造計画しよっかな」
といたずらっぽく微笑んだ。
「美咲さん、今週の土曜日、学校もバイトも休みですよね?」
つかさちゃんの言葉に頷くと、
「店長ぉ~、あたし、土曜日のシフト休みまーす」
彼女は 厨房にいる皐月さんに向かって、やおら、叫んだ。
「えっ!?急に何?」
皐月さんが驚いたように、カウンターから顔を出す。
「つかさちゃん、勝手に決めないで」
「母方の叔母の姪の子供が急病で入院したので、お見舞いに行かないといけなくなってぇ~」
「それもうほとんど他人よね」
つかさちゃんの見え透いた嘘に皐月さんが半眼になった。
けれどつかさちゃんは、のらりくらりと理由を述べ、結局、最終的に休みをもぎ取ると、私に向かってこっそりとウィンクをした。
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