5.踊る指先

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 翌日、大学で講義が終わった後、図書館へ向かおうとしていた私は、学生たちの間を滑らかな身のこなしですり抜けて行く黒猫の姿を見つけた。 「あ。美人猫さん。ねえ、あなた、これからどこへ行くの?」  声を掛けてみたが、彼女は私の声に気づかなかったのか、軽い足取りで南通用門から、構外へと出て行ってしまった。 (そういえば、あの子、一体どこの子なんだろう)  よく大学に出没しているので、この辺りで飼われているのだろうかと、ふと気になった。 「図書館は……急ぎの用事じゃないし」  私は、猫に興味を引かれて、後を追ってみることにした。南通用門を出ると、彼女は外の小道を、とことこと軽い足取りで下っていく。私は、悠々と歩くその後を、そうっとついて行った。 (そういえば、南通用門って、あんまり出たことないかも……)  初めて通る小道に新鮮な気持ちを抱きながら歩く。小道に沿ってずっと塀が続いており、何の塀なのだろうと思いながら猫の後を追っていると、猫は塀の切れ目に現れた扉の中にするりと入って行ってしまった。  私も中に入っていいものなのだろうかと、そっと覗いてみると、中は駐車場になっており、左手に立派な門が見えた。表札に『等持院(とうじいん)』の文字が見える。 「こんなところにお寺があったんだ……」  私が目を丸くしている間に、猫は駐車場を横切り、姿を消してしまった。 (この辺りの子だったのかな?)  猫がどこへ行ってしまったのか気になったが、私はそれよりもお寺の方が気になり、 「せっかくここまで来たんだし……入ってみようかな」 門の前まで行き、中を覗き込んでみた。門の中には立派な庫裏があり、そこが拝観受付になっているようだ。 「うん、入ってみよう」  私は拝観することに決めると、庫裏に向かった。建物の中に入り、靴を脱いで下駄箱に入れ、受付に向かう。
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