5.踊る指先

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 受付で拝観料を払うとパンフレットを手渡され、開いてみると、「暦応4年(1341年)に、足利尊氏が夢窓国師を開山に迎え、創建された」と寺の由来が書いてあった。 (へえ……。室町時代のお寺かぁ)  順路に沿って行くと、達磨の絵が描かれた大きな衝立があり、目を引かれた。その前を通り過ぎ、方丈(ほうじょう)と言う建物の広縁に足を踏み入れると、途端に、きゅっきゅっと鳥のさえずるような音が聞こえ、私は思わず足を止めた。 「鴬張りだ」  そっと静かに歩き、鴬張りの音を楽しみながら、方丈に面した枯山水の庭を眺める。  順路の先には霊光殿という建物があり、薄暗い殿内に入るなり、私は息を飲んだ。  中には、ずらりと歴代の足利将軍の像が安置されていた。像は人の大きさ程のサイズがあり、圧巻だ。一体一体見ていくと、それぞれ顔も年齢も違うことが分かる。他に誰もいない霊光殿の中にひとりで立っていると、歴代将軍にじっと見られているような緊張感をおぼえ、知らず背筋が伸びていた。  じっくりと足利将軍像を鑑賞した後、私は霊光殿を出た。再び方丈に戻って建物を回り込み、今度は書院へと向かう。  方丈北側の庭園は、枯山水の南庭と一変して雰囲気が変わり、緑豊かな池泉回遊式(ちせんかいゆうしき)の庭園になっていた。湿るようでいて清涼な空気感と、風に揺れる梢の音が耳に心地いい。池には錦鯉が優雅に泳ぐ姿も見える。  木々の向こうには大学の校舎が見えた。大学の側にこんなに静かな場所があったなんてと驚くと共に、こちらから見える校舎が無粋にも思えてしまう。
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