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そんなことを考えながら赤い毛氈のひかれた書院へと入ると、私は、
「あれっ?」
見知った人物の姿を見つけて、瞬きをした。
「一色君、どうしてこんなところにいるのですか?」
書院の毛氈の上に正座をして、庭を眺めていたのは一色君だった。
「あれ?弥生さん?」
一色君も私の姿に気づき、意外な面持ちで目を見開く。
「どうしたの?こんなところで会うなんて奇遇じゃん」
一色君はすぐに破顔すると、私を手招き、自分の隣を叩いた。
私は誘われるまま一色君に近づくと、彼の隣に腰を下ろした。そして、もう一度、
「どうして等持院にいるのですか?」
と同じ質問をする。一色君が場違いだというわけではないが、一色君と寺はなんだかうまく結びつかない。
「俺、この寺好きなんだよね。すっげー静かで、落ち着くじゃん?時間あったら、たまにここにくるんだよ。弥生さん、あっちの霊光殿見た?マジすごくね?足利将軍勢ぞろいだぜ」
意外な答えが返ってきて私は驚きながらも、彼の問いかけに頷いた。
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