5.踊る指先

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5.踊る指先

 水曜日。今日も鴨川の河川敷で柏木さんと顔を合わせ、挨拶と軽い雑談をした後、 「宿題は出来ませんでしたか?」 柏木さんは、そう私に問いかけた。 「はい、すみません……」  私のSNSアカウントは柏木さんもフォローしてくれている。私がひとつも投稿をしなかったことに、彼は気づいていたようだ。 「そうですか」  柏木さんはそれ以上は何も尋ねてこず、私から視線をそらすと、鴨川に目をやった。それにつられて、私も視線を動かす。飛び石を跳び、楽しそうに川を渡っている子供たちの姿が見えた。 「弥生さん、実は来週の水曜日、出張が入ってしまいまして。水曜日の約束は、来週はキャンセルさせていただきたいのですが、もしよろしければその次の日曜日、僕と出かけませんか?」  前を向いたまま、柏木さんがさらりとそう言った。 「えっ?」  何を言われたのか瞬時に理解できず、柏木さんを振り向き、短い言葉で問い返すと、 「市場調査に行きましょう」 柏木さんは私の方へ視線を戻すと、笑顔で片目を瞑って見せた。  そういえば以前、市場調査をすることも大切だという話を聞いていた気がする。 (柏木さんと市場調査……柏木さんとお出かけ……)  じわじわと言葉の意味が染み込んで来て、私は頬が熱を持って行くのを感じた。 (デ、デート……!?)  いや、柏木さんはそんな意味で言ったのではない。  そう頭では分かっているが、胸は早鐘を打っていた。 「何かご予定がありましたか?」  黙り込んでしまった私の顔を覗き込んで、柏木さんが問う。  私は慌てて、ぶんぶんと頭を振った。 「良かった。それでは、日曜日は僕と出かけて下さいますね?」  今度は縦にこくこくと頭を振る。  待ち合わせ場所と時間を決めた後、柏木さんは、今日のアドバイスとして、領収書の処理や帳簿記入について教えてくれたが、舞い上がっていた私の頭には、ほとんど入ってこなかった。
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