生き甲斐

いま

男がマフラーをしている。いや、正しくはマフラーを体の至る所に巻かれている。本来寒さから身を守る役割を担うはずのそれは男が全身から冷や汗を滲ませ、体をガタガタと小刻みに震わせる原因となっている。
男は彼愛用の椅子と共に何枚ものマフラーでくくられているのだ。体だけでなく口にもマフラーを噛ませられており声を発することができない。そもそも、助けを呼ぼうにも今男がいる部屋は彼がこの家を建てるときにこだわり抜いてこの部屋だけに施した防音壁であるから、一枚壁を隔てた隣の部屋にさえ物音一つ聞こえないのだ。