02. ひまわり

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前回、若菜が泥酔してくだを巻き、最後には泣き始めて大変なことになったから、それ以来、巧みなチームプレーで泥酔させないようにしている。 私はやっぱり広報の仕事がしたいのよ。 そりゃあ、子持ちだから時間的な制約があるし、仕方ないけどさ。 今はマミートラックのような場所でやりがいのないことやらされて、でもそれに甘んじている自分にも腹が立って。 でもよく考えたら子持ちだからってなんで諦めなきゃいけないのよ!? 日本どうなってんのよ!  あーあ、私、このままやりがいのない仕事しながら年とっていくのかなぁ。 蒼斗が成長しちゃったらどうしよう。 老けたら男にも振られてひとりぼっちよ。 こんな世の中じゃ、年金も出ないだろうし。 死んだらあんたたち、花くらい出してよね! ——というようなことを、わあーっと泣きながら一気に言うものだから、引きつけでも起こすのではないかと、気が気でなかったのだ。 「……ぶぶ漬けでも、どうどすか」 わざと声色を変えて温かいほうじ茶を置くと、若菜は眉をしかめた。 「なによ、そんなに酔ってないわよ」 「充分、酔ってるよ」 若菜は机に突っ伏して、長いため息を吐いた。 「ねぇ、夏生。65過ぎてお互い独身だったら一緒になってよね」 「はいはい」 「本気で言ってんのよ。孤独死だけは嫌なの!」 半分、聞き流しながら、夏生は皿を下げた。 カウンター越しにそれを受け取りながら、淳介が苦笑いする。 若菜を適当にたしなめてから、夏生はスタッフルームを指差した。 「ちょっと支度してくる」 ——店の奥には、事務作業をやる小部屋と、スタッフルームがある。 部屋の扉を開けた途端、むわりとした熱気がまとわりついてきた。 新しいTシャツに着替えてから、エプロンを締めるが、替えたそばから汗が吹き出してくる。 荷物を所定の棚に置いてから、洗面所で手を洗った。 水も生温く、大した気休めにはならない。 早く涼しいホールに戻ろうと、ペーパータオルを引くと、 「店長、彼女いないんだ」 背後でふんわりと甘い匂いが漂って、鏡越しの唯と目が合った。 いつの間に、背後にいたのだろうか。 ドアにもたれかかりながら、小首を傾げている。 「うん。いないよ」 今日の昼まではいたけど、とは言わないことにした。 それを受け取った途端、大輪の花が咲いたような笑顔になる。 「なんだよ」 「ふふ、なんでもなーい」 踵を返し、ステップを踏むように店先へと消えていった。 ぽん、ぽん、と地面に足をつくたびに、香りがわき立つ。 ——もう30だけど、意外とまだいけるもんなんだな。 心の奥底に生まれたうぬぼれをぐっと飲み下し、再び鏡を見る。 いつもよりも、きちんとセットされた髪。 自分では再現できないだろうから、今日で見納めだろう。 額が汗ばみ、前髪が張り付いている。 それをそっとつまみながら、頼がしてくれたのと同じように横に流した。 そしてふと、今度持っていく花はひまわりにしようと思いついた。
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