02. ひまわり

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*** 「仕事終わったの?」 もしもしと言わずに話題を振ってくるのが、頼の習慣だった。 深夜1時に閉店し、締め作業を終えたのが2時半。 店の鍵をかけてポケットにしまった際、スマートフォンの感触を見つけて——思いつきで電話をかけた。 気まぐれですぐに音信不通になる頼だから、かける時間帯は夏生もあまり気にしていない。 「頼、明日も仕事?」 「そーだよ。朝7時起き」 「寝ろよ」 「じゃあ電話かけてくんなー」 ……そりゃそうだ。 受話器越しにしばし笑い合う。 「で、別れたの?」 「ああ。別れた」 ——あの後、店に着くまでの道のりで、藍に電話をかけた。 藍は電話越しであーだこーだと言い訳をしていたが、聞くだけ聞き流してから、単刀直入に「別れよう」とだけ伝えた。 別れてみても感情は無のままで――あのつかの間の恋愛じみたものは、真夏の陽炎だったのだと思うことにした。 「そっか」 「なんだよ、嬉しそうだな」 「だって似合わなかったもん、あの子。なっちゃんに」 嬉しそうな頼の顔が、声色だけで想像できた。 夏の深夜は、熱気をまとった闇が、しっとりと肌に吸い付いてくるようだ。 快適ではないけれど、それでも、昼間よりは少しだけホッとするのだった。 会社員時代の朝型生活が染み付いていたせいか、最初の一年は体調を崩したりもしていたが、今ではもうすっかり慣れて、逆に昼間のほうが落ち着かないくらいだ。 「髪型、好評だったでしょ」 何かをしながら会話をしているのだろうか、紙袋を漁るような雑音に混じって、頼の声が響いた。 「ああ、まあな」 「なっちゃんに似合う髪型はさ、俺が一番よく知ってるから。短めの黒髪」 頼に切ってもらうときはいつもお任せにしているが、たいていの場合は短くされる。 「まあ、お前みたいに長いのは似合わないからな」 「そ? 俺、髪が伸びかけたときのなっちゃんも好きだけどな」 ……のわりに、容赦なくハサミ入れるじゃねーか。 言おうとして飲み込んだ。 自分の髪型のことをダラダラと語りたいわけではない。
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