02. ひまわり

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「なぁ。来週の週末、店手伝ってくんない?」 「なんで?」 「ほら、花火大会あるだろ」 頼は、ああと言った。 毎年、7月のこの時期、地域の花火大会が開催される。 メイン会場こそ離れているものの、たか瀬は花火がバッチリ見える河原の土手沿いに面しているため、例年、大忙しなのだ。 この日と、桜の咲く花見のシーズンだけは、外で焼き鳥や生ビールを販売したり、敷地内に簡易テーブルとベンチを置いたりする。 花火が終われば、人いきれでヨレヨレになった見物客が涼を取りに訪れるため、なんやかやで終電までは客足が途絶えない。 「あーうん、たぶんだいじょぶ」 「おい、お前そんなこと言って去年もバックレただろ」 「だからー、去年は急に予約が入ったんだよ。花見のときは少し手伝ったじゃん」 「まあいいけど。絶対来いよ」 うんうん、わかった。 抑揚のないその口調が、信用ならない。 行くと言って来ないのは頼のお約束のようなものだ。 どうせ昼間に言っていた約束だって———— バイクが疾走する、虫の羽音にも似たエンジンの音が、耳元をすり抜けていく。 灯に照らされた街路樹のさるすべりが、薄暗い中、はっとするような鮮やかなピンク色で——それを見ながら夏生は、ふと思い出した。 「あ、花なんだけど」 「花?」 「持っていく花。ひまわりにしようと思う」 頼は、しばし意味を理解するための沈黙を挟んでから、いいんじゃないと呟いた。 「じゃあ、花は俺に任せて。お客さんにさ、花屋をやってる人がいるから、綺麗なやつ作ってもらう」 「そんなこと言って大丈夫か? バックレないか、お前」 頼の息が、通話口にぼぉっと当たる音がした。 呆れたような笑い声。 「しないよ。しないに決まってんでしょ」 なっちゃんの中で、どんだけバックレキャラなんだよー、俺。 冗談を挟みながらも、声が少しだけ怒っているように思えて、夏生はやや怯んでしまう。 さるすべりのつるつるとした幹に触れ、手汗をなびった。 夏生が無言でいると、頼はまたふっと笑った。 通話口に当たる息は、もう怒りをはらんではいなかった。 「大事なことでしょ。ちゃんと一緒に行くよ」 はっきりと、ゆっくり言われて、夏生は通話口で思わず頷いた。 のちに気づき、あわててうん、と声に出す。 どぎついほどのピンク色が、夏生を見下ろしている。 まるで睨まれているかのような鮮やかさで、思わず目を瞑った。 おやすみ、という頼の優しい声が、夏生の動揺をほぐし、ふやけさせていった。
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