ふち欠けカップ

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倉庫の扉を完全に開けて、中に入る。 室内は真っ暗で、目を慣らすのにやや時間がかかった。 入り口付近に立ち、しばし目を瞬かせていると、スチールラックのラインがぼんやりと浮き出てきた。 「右下のラックに入ってますよ」 声をかけられたのは、踏み台を探してあたりを見回している時だった。 振り返ると、入り口付近に角谷(かどや)淳介(じゅんすけ)が立っていた。 頼は動揺を悟られないように、あえてゆっくりと腰を上げた。 「あ——ありがと。まだ帰ってなかったの?」 「帰ろうとしたら倉庫のドアが開いてるのが見えたから、寄ったんです」 「そう……」 淳介に教えられた場所から踏み台を出して、その上に乗った。 電球を回して外すと指先に埃がついて、指の腹で擦って落とした。 あれ、持ってきた新しい電球はどこに置いたっけ……? スチールラックを覗き込んでいると、また淳介の声がした。 「頼さん、少し話できますか」 「んー、もう遅いしなぁ」 背を向けたまま、素っ気なく答えても、淳介は動じない。 「俺、電車関係ないですから」 「淳ちゃん……」 頼はやっと振り返り、諭すような目で淳介を見た。 淳介は真っ直ぐにこちらを見ていて、それに向き合う以外の選択肢は、今のところ残されてはいないようだった。 「最近、ふたりになる機会がなかったから……」 淳介は呟いて——後ろ手で扉を閉められた。 閉めないでという言葉が、なぜか胸あたりで突っかかってしまった。 頼は、速くなる鼓動をどうにか鎮めようと、ゆっくり深呼吸をした。
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