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アパートの前まで来ると、いつのまにか距離を詰めてきた夏生が、背後にぴったりと寄り添うようにして立った。
その密度にやや戸惑っていると、階段を顎でしゃくられた。
「なんだよ、早く行けよ」
合図を受け取り、頼は階段を上がった。
上り切ると彼はまた、ぴたりと背後にくっついてきて、電車ごっこのような体勢でドアの前まで歩いた。
これも、いつも通りだった。
アパートの前まで来ると、夏生を覆っていた刺々しさはなくなり、荒々しい情欲に変貌を遂げる。
それは気分によって、細かい変化があった。
「なにしてんの」
ドアの前でもたついていると、耳に熱い息を差し込まれた。
「待って、鍵が出なくて……」
夏生の手が伸びてきてパンツのポケットに差し込まれた。
角度的に、背後からのほうが鍵の出し入れはスムーズなのだろう。
器用に鍵を取り出すついでに、ポケット越しに敏感な部分をひと撫でされて、体が跳ねてしまった。
「早く入れよ……」
急かされて、頼はうっすらと悟った。
今日はものすごく——機嫌が悪い。
そしてそういう時の夏生は、抑えがきかない。
ドアを開けるよりも先に、頼は欲望に震えた。
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