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「夏生さん、焼き鳥できました」
「はーい」
夏生は、上がってきたそれらを、フードパックにせっせと詰めていった。
今日は淳介が焼き場とバーカウンター、秋穂がそれ以外の調理を担い、はつ美が店内のホール対応、南と唯が路上販売をそれぞれ担っている。
夏生は、すべてのポジションを見ながら、それぞれのヘルプに入っていた。
今は主に、バーカウンターのヘルプと料理の提供だ。
特に、路上販売している生ビールを運ぶのが追いつかない。
「焼き鳥お待たせ」
包装したそれらを抱えて表に出ると、人混みのにおいがした。
下駄がコンクリートに擦れるカラカラという音が、人々の声の中に混ざり合い——色とりどりの浴衣が、普段は寂しげな河川敷を絨毯のように賑やかにしている。
「店長、焼き鳥早くください! あと、生をどんどんお願いします」
客対応をしている唯に代わり、南がボブヘアを振り乱しながら、慌ただしく焼き鳥を受け取った。
——滝田南。
この女性も、今やたか瀬になくてはならない存在だ。
淳介が来てから3カ月後、「スタッフ募集」と書いた店の貼り紙を見て唯が来てくれて、その後すぐに、南も入って来た。
立て続けに2人も雇って大丈夫かと夏生は内心ヒヤヒヤしていたが、その心配は杞憂だった。
愛想が得意でのんびりしている唯と、化粧っ気がなく愛想もないが、頭の回転が早く、効率よく動いてくれる南。
ふたりはうまく役割分担ができていたし、なにより若い女性がいると、場の雰囲気も明るくなって活気が出た。
そのせいか、新規顧客も増えたのだった。
20歳の唯、23歳の南、27歳の淳介。
夏生以外のスタッフは全て20代となり、
「なんかたか瀬もすっかり世代交代だなあ」
と、常連客たちだけが、少し寂しそうな声を漏らすのだった—————
「……なんですか?」
夏生が黙っているのを不審に思ったらしい南が、怪訝な表情を浮かべた。
「いや。生持ってきまーす」
南にまっすぐ見つめられると、弱い。
唯のそれとは、全く意味が違うのだが。
——焼き鳥補充ください
——生、早く!
——枝豆、切れそうです
——調理場、少し入れない?
そんな声が室内外から飛び交い、夏生は慌ただしく駆け回った。
最も忙しいのは、オープンから花火が始まる7時半まで。
今はもう7時だが、頼はまだ来なかった。
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