01. 光を帯びた人

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人いきれの間から突如現れた鈴木(すずき)(より)は、まるで光を帯びているようだった。 茶色い髪は、陽の光にさらされて透き通っている。 こちらに向かってひらりひらりと手を振ってはいるが、その姿は、夏の日差しの眩しさと相まって半透明にも見え、瞬きをしたら消えてしまいそうなくらいに危うい。 “頼りにならない頼ちゃん” 昔、母親が茶化すようにそう言っていたのを、今、なぜか思い出した。 ——まったく、柳の枝のようにしなりしなりして。肝心な時にいやしないんだから—— 夏生は何度か瞬きをして頼の姿が消えていないことを確かめると、一歩踏み出した。 しかし、頼は微かに首を左右に振って——夏生の動きを制止した。 そして、少し遠くに視線を投げてから、また夏生へと戻す。 「あっちを見ろ」と、目で訴えているのだ。 夏生はなんとなく気の進まぬまま、視線の先を見た。 後悔という文字は、まるで糸でくっついているかのように、すぐに追ってきた。 そこには、付き合い始めて間もない恋人——田宮藍(たみやあい)の姿があった。 藍の媚びたような視線は、自分ではなく頼を捉えている。 胸元を強調したワンピース、きっちりと縁取られたリップ——自分と会う時よりも、つま先から頭のてっぺんまでピカピカに磨かれているようだった。 なんだ、これは。 どういう状態なんだ。 頼は藍と落ち合うと、そのむっちりとした肩を抱き、夏生に近づいてきた。 当の夏生はというと、今起きている状況もろくに整理できず、鯉のように口を開けてぼんやりしながら、それを受け入れることしかできない。 こちらの存在に気づいたとき、それまで嬉々としていた藍の瞳は、みるみると暗くなり——やがてせわしなく泳ぎ出した。 「藍、何やってんの……?」 今日の朝、彼女から「仕事頑張ってね」だとか「来週、会えるのが楽しみ」などというメッセージを受け取ったばかりなのに。 口をつぐんでいる藍に代わって、頼が沈黙を破った。 「この前、藍ちゃんが俺のところに髪切りに来てね。どうしても俺とごはんに行きたいってしつこいからさ。どうせなら3人の方がいいかなーって」 頼が藍の肩を掴んで、にこりと笑う。 一見フレンドリーに見えるそれは、相手を追い込むときの手段であることを、夏生は長年の付き合いで心得ていた。
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