01. 光を帯びた人

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*** 「本当にもう帰っていいのかよ?」 頼は夏生のスタイリングが済むと、一緒に店を出た。 まだ昼の2時だというのに、早々に店じまいしていいのだろうか。 「いーの。今日は予約入ってないし、仕入れに行くから」 「仕入れ?」 「そ。明後日、縮毛矯正のお客さん入ってて、その人に使う薬剤。かなり癖が強いからさー、その人用に強い薬を調達してんの」 湿気をはらんだ熱風が、頰や首すじにまとわりつく。 すうっと足に伝った汗がデニムの中で熱を帯びて、夏生はため息をついた。 「頼、全然汗かかないのな」 「えー? かいてるよー」 「どこがだよ。俺の見てみ、この汗」 額の汗を手のひらで拭ってから近づけると、頼は眉をしかめて後ずさりした。 「なっちゃんはかきすぎ」 なすりつけようとふざけて近寄ると、身をよじって避けた。 そうかと思えば突然振り返り、夏生の汗まみれの額に張り付いた前髪をつまんで、横へと流す。 「かっこよくスタイリングしたんだから、今日くらいはキープしてよ」 ふいに体が近づいて、夏生は思わず息を止めた。 その瞬間——信号が青に変わった。 「じゃあ俺、こっちだから」 「ああ、ありがとな」 「そのうち、たか瀬にも行くね」 頼の“そのうち”はあてにならない。 話半分に聞き流し、夏生は顔も見ずに片手を上げた。 お互いに、背を向けて歩き出す。 夏生は少し歩いたところで、今日の代金をまだ払っていないことに気づいた。 「頼!」 頼は横断歩道の中間地点まで歩を進めていた。 こちらの声は聞こえていないようだ。 ——耳に白いなにかが引っかかっている。 イヤフォンだった。
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