01. 光を帯びた人

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「頼!」 もう一度叫ぶが、頼は気づかない。 信号がチカチカと点滅し、そのまぶしさによろめきそうになる。 鼓動が鼓膜に張り付いているのかと思うくらいに音を立て、思考を鈍らせた。 こめかみが痛い。 熱気が、コンクリートからむわりと昇る。 暑いのは当たり前だ。 夏なのだ。 そう——あのときもこんな風に暑かった。 このまま立ちすくんでいたら、体が影に吸い取られてしまいそうで、夏生はそれらから逃げるように走り出した。 10メートル、20メートル。 もつれそうになる足をなんとか前進させながら、頼に近づく。 やっとその腕を掴むと、頼が目を丸くして振り向いた。 「どう、したの……?」 一瞬の間。 自身からこぼれる荒い呼吸で、時が止まっていないことを確認し、少し安堵する。 信号が赤に変わったらしい。 頼は夏生の背中に手を当てて誘導し、歩道を渡りきった。 呼吸を整える。 吸って吐いてを繰り返すうちに、だんだんと意識が舞い戻り、所々に血が通い始めた。 「イヤフォンしたまま歩くなよ」 「え?」 「イヤフォンだよ!」 耳を指差しながら、衝動的に叫んでしまった。 頼は目を見開いてしばし当惑していたが、そのうちまた穏やかな表情に戻った。 「ごめん。なっちゃん」 頼のなだめるような、ひそやかな声を聞いて——ようやく安堵がやってきた。 「もう、つけないから」 大丈夫だよ———— 今の言葉を頭の中で反復しながら、夏生は頷いた。 夏のせいだ。 すべては、うだるようなこの暑さのせいだった。
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