黒髪お姉さんとお手伝いロボット

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黒髪お姉さんとお手伝いロボット

「一家に一台、お手伝いロボットはいかがですか?」  しまった。昼から友人と遊ぶ約束をしていた俺は、てっきりその友人が我が家に到着したものと思って扉を開けた。  だが、目の前に立っていたのは清潔感溢れるスレンダーなお姉さん。俺の好みどストライクではあるのだが、問題はこのお姉さんが粘っこい訪問販売員だということだ。 「あ、すいません……前にも何回かお断りしたと思うんですけど……」 「一家に一台、お手伝いロボットはいかがですか?」  満面の笑みで俺の言葉をスルー。  ちくしょう、相手が男だったら「ファッキューメーン」と張り手をかますところだが、なんせ超絶美人なお姉さんだ。艶のある黒髪と輝くような笑顔の前に、男は無力。  俺はこれまでにも、このお姉さんの魅力に負けそうになったことが何度かある。  一番危なかったのは、お姉さんに見とれて俺の意識が空中浮遊している間に、しれっとお手伝いロボットとやらの購入契約書へサインさせられそうになった時だ。  俺は苗字を書き終えた段階で我に返り、慌てて契約書を破り捨てたが、そこで女性の持つ魔力の怖さを知ったような気がする。  とりあえず、ここはキッパリとお断りをして、もう二度とウチに来ないよう強く言っておこう。お手伝いロボットとか胡散臭いし。 「あの、ほんとにロボットとか要らないんで! もう来ないでもらえませんか」 「一家に一台、お手伝いロボットはいかがですか?」  やべえ。この人やべえ。もうこれしか言わないつもりだよ絶対。多分俺が「買います」って答えるまでこれしか言わないよ。あんたこそ正真正銘のロボットだよお姉さん。  より輝きを増した笑顔の前で、俺は困り果てていた。さて、どうしたものか。このままだと埒があかないぞ。  ……あ。もしかして、話を全く聞かずに追い返そうとするからダメなのかな。  ここはあえて商品の説明をちゃんと聞いて、吟味した上でのお断り感を出してみるのはどうだろう。 「すいません、いきなり購入には踏み切れないんで、商品の説明を聞いてもいいですかね?」 「かしこまりました。こちら、お手伝いロボット『ONESAN-01』のパンフレットでございます」  どうも、と軽く相槌を打って差し出されたパンフレットを受け取る。  表紙にはゴシック体の大きな文字で「新時代の到来、ONESAN-01始動」と書かれている。  そして、俺はお姉さんの説明に合わせてパンフレットをめくっていく。 「お手伝いロボット『ONESAN-01』は、現在の人類が持ちうる最高の技術を結集して造られた、生活サポートロボットです。炊事、洗濯などお客さまの身の回りのお世話はもちろん、あらゆるデータベースへの接続が可能となっており、お客さまが必要とする情報を即座に――」  初めは流す程度にしか聞いていなかったが、説明を受けるうちにだんだんと俺はその高性能ロボットに興味を持ち始めていた。  なんだかんだで凄そうだぞこのロボット。しかも外見は人間そのものにしか見えないという。 「次のページに写真がございます。ぜひご覧になってください」  お姉さんの言葉に促され、俺はまた一枚ページをめくった。 「えっ!?」  そこに載せられたロボットの写真を見て、俺は驚愕した。  目の前にいるこのお姉さんと全く同じ容姿なのだ。艶やかな黒髪にパッチリとした瞳、そして宝石のように輝く笑顔。  おい、どういうことなんだこれは。頭が混乱してきたぞ。 「え、これ……えっ、えっ?」 「驚かれましたか? 実は私こそがお手伝いロボットONESAN-01なのです」  空いた口が塞がらなかった。いや、色々とコメントしたいことはある。何でロボットが自分で自分のセールスをしてるんだとか、 ONESANってそのまま「お姉さん」の意味だったのかよとか、もうツッコミ所がありすぎて訳わからん。  とりあえず「ジーザス」とだけ呟いた俺は、さらにその場で数分固まった。  「いかがですか? ぜひ私を購入して頂いて、お客さまの生活をより豊かなものにしましょう!」  未だに信じられない。このお姉さんがロボットだなんて。さっき心の中で「あんたこそ正真正銘のロボットだよ」とか思ったけど、まさかその通りだったとは。  「さあ! 私を買って! あなただけの物にしてください!」  おい。なんかONESANのテンションが上がってきたぞ。ほんとにロボットかこいつ。近所の人にこんなとこ見られたら変態のレッテルを貼られるじゃねーか。  ただ、正直こんなに美しいお手伝いロボットが手に入るのなら、それはそれで良いのかもしれない。 「……ちなみに、ですけど」 「はい!」 「代金っておいくらなんですか?」 「月額千円でございます! 月額たったの千円で私はあなただけの物に! ああ早く! 私を買ってお客さま!」  ふむ。月額千円か。まさかの継続課金制か。うん。なるほどね。 「……買った!」  そして俺とONESANの共同生活が始まった。
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