由華と理の言い分

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由華と理の言い分

(……本当に、この扉を開けていいのか……!?) 俺は寝室のクローゼットの扉に手を掛け考える。 自問自答してみるものの、由華から突如別れを告げられ、崖っぷちに立たされた身としては、もう後には引けない。 (えぇいっ!なるようになれっ!!) 俺はクローゼットの扉を一気に開け放った。 # クローゼットの中には色とりどりの大量の毛糸とソレに突き刺された様々な号数の棒針達。 今まで作った作品達も収納されている。 「……」 背後からは沈黙しか返ってこない。 毛糸の量に圧倒されているのだろう。 恐る恐る俺は口を開いた。 「……俺……ずっと黙ってたけど、実は編み物が趣味なんだ――――」 「知ってる……」 「そう、『知ってる……』ーーって!?は?……い、一体どういうこと!?」 俺は完璧な計画が、頭の中でガタガタを音を立てて崩れ落ちるのを感じ取った。 由華の方を慌てて振り向くと、彼女は申し訳なさそうに俯いている。 「……理君、いつも冬になったら首元も手もめちゃくちゃ寒そうにしてたけど、私の前では(かたく)なにマフラーも手袋も付けへんかったやん?付き合い始めの頃、誕生日プレゼントにあげようかなって思って、東京の同期の子に聞いてん。そしたら、会社にはいっつも付けてきてるって……」 「……」 「それも『全部手作りで既製品並みの上手(うま)さ』やでって。……私の前で身に付けへんのは、趣味を知られたくないんかな……って思ってたから、今までその話題にはわざと触れへんかったんやけど……。でも、さっき見たヤツは私が編んだものよりも明らかに下手なマフラーやったし、これは理君が作ったモンちゃうな……って。それやったら、誰かから貰ったモンなんちゃうんかな……ってーー」 「……」 ここまで聞いて、俺の計画が全て裏目に出ていたことに気付いた。 由華をこんなに不安な思いにさせるくらいなら、嘘なんか吐かずに最初っから素直に本当のことを言っておけば良かったのだ。 目の前にいる由華は今にも泣き出しそうになっている。 俺はベットに腰掛ける由華の手を取って、視線を合わせた。 「俺はこの趣味を知られたら由華が俺から離れると思ってて……」 「私、理君が【編物男子】でも全然構わへんし……。そんなんで嫌いになったりなんてせーへんわ」 「わざと目を粗く編んで、今まで趣味のことを隠してたことを誤魔化そうと……。ごめん、本当にごめん」 由華は驚いたようにバッと顔を上げた。 大きな目をさらに大きく見開いている。 「……あれ、理君が編んだん?」 「そうだよ。逆に難しかったよ……」 苦笑いすると、由華も漸く笑みを見せた。 「……誰かから貰ったものとちゃうん?」 「俺、そんなにモテないしモテると思ってるのは由華だけだから。俺に手作りのものをプレゼントしようと思う人は由華以外にいないよ」 ほっとした笑みを零す由華を見ながら、俺は決意する。 (……もう二度と由華に隠し事をするのはやめよう……) 「じゃ、遅くなったけど、今から理君の為にビーフシチュー準備するね!……理君に手作りするんは私だけみたいやし!」 上機嫌に立ち上がった由華を見て、俺もほっと一安心したのだった。 【Fin】
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