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そのマフラーは少し変わった形をしていた。
片方の端に穴が空いていて、もう片方の端を突っ込むような形になっていて、首にぐるぐるっと数回巻き付ける長さも無く、フェイスタオルの長さよりも短かった。
編み目の粗さから見ても、既製品ではない。
タグもついていないし、どう見ても手作りだ。
誰かから借りたり、落とし物を拾ったのかな、とも思ったが、肌に直接触れるものだからか、まずマフラーを借りることはないだろうし、駅などで拾ったら自宅に持ち帰らず『落とし物』として届けるだろう。
そこまで考えて、とある事実にはっと気付いた。
「……そう言えば、理君の誕生日、一昨日やったやんーー……」
本当は当日一緒にお祝いしたかったが、遠距離恋愛中の身。
そう簡単にはいかない。
当然のことながら、お互い仕事がある。
彼の誕生日を無視していた訳では無かったが、一緒に祝うことは出来なかった。
とりあえず、当日は私から電話を掛けて「おめでとう」とは言った。
だが、今、丁度、繁忙期の理君は、かなり仕事が立て込んでいたのか、まだ仕事中だったようで殆ど話をすることも出来ぬ間に忙しなく彼は電話を切ったのだ。
今日だって残業しているのか、既に定時も過ぎているというのに連絡も無く、まだ帰ってくる様子も無い。
少しでも彼の顔を見て「おめでとう」と言いたかった私は前もって仕事を済ませ、金曜日に半日有給を取り、夕方前に漸く彼の居る東京へとやってきたのだ。
少し早目に来て、理君が帰ってくる迄に手料理を作って待っているつもりだった。
その為に材料も購入した。
しかし、コレを見た瞬間、そんな考えはどこかへ行ってしまった。
先ずは、誰から貰ったモノなのか、どこかに手がかりらしきものはないか探してみることにする。
紙袋を逆さまにしてみた。
……何も出てこない。
手紙なども無さそうだ。
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