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2日後、弁護士とともに拘置所に向かった。宗親さんも付いてきてくれると言ってくれたけど、自分で気持ちに整理をつけたくて、自分で話すことにした。
久しぶりに見る副社長は、表情が暗くてとても小さくなったように見える。
弁護士からは、私に出会う前から副社長は詐欺を始めていたと聞いた。詐欺の動機は、自分の自由になる金が欲しいからとのことだ。
母は正式に板野家の養子にならなかったから、私は母と同じ姓だ。私が母の子だというのは、出会ってすぐにわかっただろう。母が妊娠していたことを知らなかったとしても、自分の子かもしれないと思わなかったのだろうか。
「紫織を助けてくれたそうだな。ありがとう」
「いえ…面会に応じてくれてありがとうございます。今日は聞きたいことがあります」
「何でも答える」
「どうして私を抱いたんですか?」
親子だって分かっていたのに。家庭があるのに。
「君は私の加陽子にとてもよく似ている。加陽子はどこかに行ってしまったんだ。加陽子に似た君を見て、そばに置きたいと思った」
苦しそうな表情を見て、この人にも心があったんだなと思う。
「母とは、愛しあっていたんですか?」
「母?加陽子のことか?愛し合う?愛なんかじゃない。加陽子は私の全てだ。
加陽子を初めて見たときから、私のものにしたかった。運命の番なのだと思う。加陽子は姉に気兼ねしていたようだが、発情期に噛んだ。
私は2人でどこか遠くに行きたかった。でも私を置いて、加陽子はいなくなってしまった」
運命の番。魂で惹かれあう唯一の存在。母さんは姉の婚約者と番になることはできないと思ったんだ。だから姿を消した。
「加陽子が戻ってきたらすぐにわかるように、加陽子の姉と結婚した。それに人を雇ってずっと加陽子を探しているんだ。
加陽子を探す資金にするために、どうしても自由になる金が欲しかった。加陽子に会えたら、今後こそ2人で暮らしたい。そのためにも、もっと金が必要だ。
いくら寂しかったとはいえ、加陽子に他のΩを抱いたことを知られたら怒られるな。私は加陽子のものなのに」
母さんは死んだ。
Ωの収容所にいる私に出会ったときには、この人もわかっただろう。
母さんはこの人が私にしたことを、決して許さない。
金稼ぎが、母さんのためだったなんて、母さんは知りたくないだろう。
壊れてる。
望む人と番になれない。
番の死を受け入れられない。
この人もかわいそうな人だ。
副社長は奥様と婚約してたけど、副社長が好きになったのは母さんだった。そのことがきっかけで母さんも、副社長も、奥様も、紫織さんも苦しんだ。
「いつか加陽子さんに会えるといいですね」
これ以上私が言えることはない。
副社長はにっこり笑って、頷いた。
私には帰るところがある。
でもこの人は帰るところをなくしてしまった。
宗親さん。私の番。
次の発情期に噛んでもらう約束をした。
今、あなたに、とても会いたい。
いつの間にか宗親さんは、私の中で欠かせない存在になった。私は宗親さんにいつも助けられている。一緒にいると、ほっとする。
あなたに出会えて良かった。
私はあなたの腕の中に落ちた。
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