0日目

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0日目

「宗親、一刻も早くαの孫の顔が見たい。孫を一人前にして安心したい。私の代で西嶋の家を途切れさせる訳にはいかないからな…」  養父は社長室の重厚なソファーに座っている。養父の西嶋宗光(にしじま むねみつ)は60代。鋭い眼光のαで威圧感がある。 「かしこまりました。社長」 「宗親様、Ωを30名見繕ってまいりました。この後データを見ていただいて、早速見合いの場をセッティングさせていただきます」  社長の腹心、秘書課の立川彰(たちかわ あきら)課長が言う。立川課長は、50代のα。αにしては温和な印象だ。  社長の養子の見合い相手探しなんて業務外だと思うが、淡々と話している。 「お手数ですが、立川課長がいいと思う順に候補者を並べてください」 「既に並べてあります。1番のΩから会っていただくということでよろしいでしょうか?」 「いいえ。30番目の方がいいです」 「私が良いと思う順に並べたんですよ。1番は代議士令嬢です」 「1番条件が悪い方がいいです。子どもを産んでくれさえすればいい」 「30番は西光(せいこう)不動産の社員の男Ωです。しかも、この名簿に入れるべきではなかった」  立川課長が言い淀んでいる。 「構いません」 「いいだろう。彼がいる営業所に宗親を配属させる。2週間後の4月29日までに番を作る。それが後継者にする条件だ。西嶋家のαならできるだろう」  養父が鋭い声で言う。養父は30番目のΩに心当たりがあるようだ。 「かしこまりました」  俺は頭を下げた。2週間で30番目のΩのうなじを噛む。昔はΩのうなじを無理やり噛んでも犯罪にはならなかったそうだが、Ωの地位が向上した今では合意でなければもちろん犯罪だ。 「しかし、彼は…」  立川課長は更に納得いかないようだ。 「立川、くどい。話は終わりだ」  養父の一喝で決定した。  明日から、俺は彼のいる営業所で研修を行うことになった。
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