終わらない絞殺

2/4
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「今夜のホテルは、私が取ってあげてるから」  玲奈を切り捨てて俺が選んだ女。交際は順調だ。値の張ったイタリアンで腹ごしらえしたあと、二人でホテルに向かう。タクシーを降りた瞬間、俺は愕然とした。 「なんでここのホテルなんだよ!?」 「えっ? ダメだった?」 「余計なことしやがって……」  そこは俺が玲奈を殺したシティホテル。よりによってなんでこのホテルなんだ。さらに最悪なことに、女が押さえた部屋が、偶然にもあの日と同じだったということ。俺は運命を呪い殺したくなった。今夜は何もせず寝入ってしまおう。そう心に決め、忌まわしいあの部屋に足を踏み入れる。  大窓から見下ろす都内の夜景に女は上機嫌だ。女なら誰だってそうなるだろう。あの日の玲奈もそうだった。数時間後に絞殺されるとも知らず、無邪気に夜景を眺めていた。  スーツを掛けようとハンガーを手にしたとき、部屋の電話が鳴った。受話器からはフロントスタッフの声。どうやらロビーで何かを落としてしまったようだ。部屋まで持ってきてくれるらしい。  スタッフの到着を知らせるインターホン。ドアを開けると、スタッフの手には格子柄のマフラーが握られていた。 「こちら、お客様の落とし物では──」 「違うに決まってるだろ!」  反射的に怒鳴ってしまった。激しく動揺したせいで呼吸が乱れ、息が荒くなる。わけも分からず怒鳴られたスタッフは、ひたすらに謝罪を繰り返している。それにしても、なぜ格子柄のマフラーがここにあるんだ? 怒声に気づいた女が心配そうに近づいてくる。 「おい! 用事ができたから今日は帰るぞ!」と女に叫んだ。  スタッフは頭をさらに深く下げ謝罪する。別にアンタのせいじゃないよ──罪悪感に気づいてはいるが、もう後には引けない。 「二度と来るか、こんなホテル!」  吐き捨てた俺は女の腕を強引に引き寄せ、そのままホテルを後にした。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!