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終わらない絞殺
それは、あっけなく終わった。俺に罪はない。気持ちがヨソに向いている俺に気づかず、つきまとい続けた玲奈のせいだ。自業自得ってやつ。俺は悪くない。目玉をひん剥いたその顔は、何かに怯える老婆のように見えた。
クリスマスにプレゼントしたモノクロの格子柄マフラー。それを凶器にして絞殺されるなんて、玲奈は考えもしなかっただろう。殺意から解放された俺の腕が、今も小刻みに震えている。
アドレナリンにどっぷり犯された思考じゃ、死体をどう処理するかなんて思いつかなかった。ニュース番組で報道されるのだろうか。しれっと警察に捕まるのだろうか。まぁ、いいや。後で考えよう。俺はシティホテルの部屋を後にした。玲奈の死体と別れ話を残したまま。
「玲奈か?!」
出勤途中の電車の中。隣で吊り革を持つ女の巻くマフラーが、玲奈にあげたものと同じだったので、思わず上ずった声がでた。女は怪訝な顔で俺を一瞥した。
似たようなマフラーを巻いている女が思った以上に多い。街で見かけるたびに吐き気を催す。流行りモノのマフラーをプレゼントしたことを後悔した。
俺がそれに怯えるようになったのは、玲奈を殺してしまったからじゃない。あの日から世界が何も変わらなかったからだ。報道されるわけでもなく、警察がやって来るわけでもない。玲奈の死なんてなかったかのように、日々が過ぎていった。だから俺はこう思うようになった。
──玲奈はまだ生きているんじゃないか?
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