終わらない絞殺

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 長谷川は目を覚ました。ここはどこだ? 暗闇で目をこする。そうだ、同僚の自宅に招かれ、しこたま酒を飲んだんだ。口内に残ったアルコールの不快さが、それを思い出させた。どうやら泥酔してソファで眠ってしまったらしい。ちゃんと毛布もかけてくれてある。  そういやバカみたいな作り話を聞かされたもんだと、昨夜の会話の内容を思い出す。何度絞殺しても死なない人間なんているわけがない。尿意を感じた長谷川はゆっくりと起き上がり、手探りでトイレを目指した。 ──でも、もし、ほんとだったら?  長谷川の好奇心がくすぐられた。それは──同僚の妻を絞殺してみる──ということ。  抑えられない興奮が全身を刺激し、尿意すらも忘れた長谷川は、夫婦が眠る寝室へと忍び込んだ。 ──これが例のマフラーか?  間接照明が灯されたままの寝室。二人の寝息が聞こえる。ポールハンガーに賭けられたマフラーを手に取ると、両手でそれを左右に引っ張った。  好奇心の対象(ターゲット)の上にまたがり、ゆっくりとマフラーを首に回す。そして、絞殺を楽しむように、ゆっくりと捻じりあげた。気道が完全に塞がれたのだろう、微かなうめき声が聞こえた。間接照明に照らされた顔面には、ひん剥いた白目が浮かび上がっていた。  それから数日後、ニュース番組である事件が報道された。  同僚の妻をマフラーで絞殺した男。それに逆上した夫が同僚を撲殺。その後、夫は都内のシティホテルの一室で首を吊って自殺したという凄惨なニュースだった。その首には、妻の絞殺に使用されたモノクロの格子柄マフラーが巻かれていた。  ただ、不可解ことがあったそうだ。事件で使用されたマフラーと、検視のために病院に運ばれた妻の遺体が、忽然と姿を消したらしい。
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