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最期の旅-1
少女は息をしていなかった。
一歩先も見えないほど暗い洞窟のなか、岩壁を伝いながら歩いていた。くるぶしまで泥水に浸かっている。
白い手のひらで岩の凹凸は感じても、恐ろしいまでの冷たさは感じない。蹴り分ける水の滑らかさを捉えても、醜悪なまでの臭いは感じない。
少女に心臓はない。
けれども少女の胸は確かな恐怖で締め付けられていた。
この先に行くのが、怖い――でももう、この先にしか、希望はない。
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