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誰かが言った。
「もっと、楽な道にいきなよ」
それができたら、苦労しない。
それができないからこんなにも苦しんでいるのに。
他に道なんてなかったんだから。
選ぶ余地もなかった。
私はただ、生きたかった。
どれほど辛い道を歩もうとも。
自分の命の次に大事な感情を犠牲にしても、生きたかったのだ。
私はそれを犠牲にして、生きることを決めたのだ。
本気で泣いたのなんて、どれほど前だろうか。
本気で怒って、憎むことはあっても、それを表には出さず。心の奥底でめらめらと燃やして。
本心から笑ったことも、とても前のことで思い出せなくなってしまった。
楽しいときは……そうさな。小説の世界に入っているときだけだろう。
普段の私は本当の感情なんて見せてはいない。いつも、偽りの感情を表に出しているだけだ。
最初はその狭間で苦しんだが、今ではもう、慣れた。
私は未だに過去を引き摺っている。
それに苦しめられている。そんな過去を切り捨てればという意見もあるだろうが、そんな真似はできない。
なぜか?
過去も含めて、今の自分があるからだ。
辛くて苦しいけれど、それがなければ、主人公達の核とも言える部分が描けなかっただろうし、そもそも小説に出会ってもいなかったかもしれない。
私は感情を犠牲にして、小説というかけがえのないものを手にした。
私が思うことだが、この世はなにかを犠牲にしなければ、なにも得ることはできない。
大きな犠牲でも、得ることのできた小説を大切にして、これからを生きていこうと思う。
小説に関わる時間があれば、きっと大丈夫だろう。
現実はいつだって、辛いものだ。なら、小説の世界に飛び込んで、少しでも心を軽くした方が、よっぽどいい。
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