心と感情

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心と感情

 私が斬り捨ててきたものについて語ろうと思う。  どちらも命の次に、生きていく上ではとても大切なもので。  痛い、苦しい、憎い、哀しいなどに押し潰された結果、私はその二つを捨てたのではないだろうか。  持ちこたえるためには、仕方のないこと。  私はなにを犠牲にしても生きることを第一に考えた。  死にたいと思ったことは何度もある。  けれど、小説をやりかけにしたまま、まだ書きたいものもあるのに、途中で投げ出したくなかった。  だから、生きようと思った。  私は心など、感情など、取るに足らないものだと思っている。大事なものなどではない、と。そうでなければ、どんな状況に陥っても手離しはしなかっただろう。  私は考え方を変えてしまったのだと思う。  心や感情などは、大事にするべきではないと。そう思って、後のことを無理やり考えずに、斬り捨てた。  その直後は、反動が強かった。くる日もくる日も泣いてばかり。胸が痛くて仕方がなかった。でも、だんだんと慣れていき、泣かなくなった。本当に楽しくて笑うこともなくなった。本気で怒るようなことがあっても、できるだけ表には出さず、内心で怒りの炎を燃やして。  自分の中に、今まで感じてきた嫌なことをすべて溜め込んでいったのだ。  その代わり、なにが起きても動じないという冷静さを得た。  自分のことをどこか他人事のように見るもうひとりの自分を獲得した。  自分が苦しくてどうしようもなくてもがいていても、それをただ見つめる。そう、傍観者だ。それが考えるのは、もう一人の自分を助け出すことではなく、どうしたら苦しさに巻き込まれずに済むか。それだけを考えるのだ。
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