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名刺
「あれ?ここにもあった・・・」
名刺入れの代わりにしているスマホケースのポケットから、名刺を全部取り出す。
使い慣れた自分の名刺以外の名刺を机の上に並べて、美樹は考えていた。
同じ名刺が二枚、紛れ込んでいた。
➖いつのだろ?➖
引き出しから、ファイルを取り出した。
透明なホルダーには、仕事で交換した名刺がざっと50枚保管してある。
本来、その名刺が入るべき場所には、すでに同じ名刺が入っている。
ホルダーから名刺を取り出して、並べた。
合計4枚。
「なんじゃこりゃ!」
思わず大きな声を出してしまい、オフィスの視線を集めた。
電話しながら、雑談しながら、パソコンワークしながらのそれぞれのメンバーが一斉に美樹を見る。
「すいません、なんでもないです」
さっきより少し控えめな声で頭を下げ、ファイルに名刺をしまった。
全く同じ名刺が4枚。
美樹の名刺ファイルにしまわれた。
➖いつのまに、4枚も?名刺交換ってしたことないと思うんだけど➖
どんなに記憶をたどっても、この名前の人と名刺交換をしたおぼえはないのに4枚もある。
「なんで?こんなに集まった??」
誰に聞くわけでもなく、小さく呟いた。
そして、フフッと笑ってしまう。
➖あの人らしすぎて、可笑しい➖
白井美樹・・・50を過ぎて2年
バツが付きそうで付いていない、成人した息子と娘を持つワーキングママ。
このまま普通に年老いていくことを、特に疑いもせず暮らしていた見た目普通、経済状況普通の事務職。
最近少しだけ、雰囲気が変わってきたと周囲から言われていることに、本人は気づいていない。
それが、この名刺のせいだとは、周囲の誰も気づいていない。
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