東京にて

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➖あれからどれくらいの時間が過ぎたのだろうか?➖ 美樹は3回コールして切れた【非通知】の着信履歴を見ながら、思い返していた。 ➖8・・・、10年くらいたつのかな➖ 「ねぇ!その電話って、話があるから美樹からかけてこいってことでしょ? 都合が悪ければかけなくていいけど、って。 かけなくていいの?私ならゲームしてるから、気にしないでかけていいよ」 そう言いながら下手くそなウィンクをしてみせる由里子。 「そう言っておいて、ちゃっかり聞き耳たてるくせに。まぁ、そういう意味の電話なんだけど」 昔決めたルールでかけてきたアイツ。 ➖用件はなんだろう?➖ アイツとの電話には、あまりいい思い出がない。 できれば、メールだけで済ませたいと思ったが 数年ぶりの電話に、ほのかな甘さを期待する気持ちもあった。 「早くかけなよって!」 由里子にせかされ、スマホの連絡先から【非通知】の相手であろうアイツの番号をコールする美樹。 アイツ・・・の名前は田崎貴俊。 携帯からスマホに替えても、ずっと連絡先として残しておいた番号を久しぶりに見て、ドキドキする。 『はい・・・』 2回目のコールで、田崎の声がした。 ふうっと一度深呼吸をして、美樹が答える。 「もしもし?久しぶり・・・」 『お、そ、い!!』 「ぷっ!」 懐かしさを共有するセリフを言わせてもくれず、電話をかけるのが遅いと文句から始まる、相変わらずの田崎に美樹は思わず吹き出した。 そんな美樹の気持ちを推し量ることもなく、つづける田崎。 『用件を言う、来月の8日東京に行く、貴女も一緒に』 「は?え?東京?なんで?私も?どうして?」 突然の田崎の誘い(?)に戸惑い、すべて疑問形で答える美樹。 『昔、話したことあったよな?大事なパーティーにパートナーとして同伴して欲しいって。それを来月8日に実行してほしいってこと。返事は?』 大事な?パーティー?パートナー??? 「あぁ!あれ?あれって冗談じゃなかったの?」 田崎の仕事は、起業家で投資家で京都では派遣会社を経営し、東京ではカフェやレストランをいくつか経営している、と聞いたことがあったなと記憶を掘り返す。 その投資のスポンサーを探すのに、あちこちのパーティーに出席していると。 そこにパートナーとして同伴してほしいと言われたことがあった。 しかし、その誘い(?)のすぐ後に、田崎は逮捕されてしまった。 証券取引法違反だった。 持っていた全部の財産を押さえられ、会社は所属していたグループに権利が奪われ、そして2ヶ月の留置。 残ったのは、京都の家だけだと言っていた。 出所したあとほどなくして連絡があったが、パーティーの話など忘れていた。 と、いうより、刑を軽くするために 『結婚するわ、相手はバツイチ子持ちしかも二つ年上だけど』 留置される直前に、そんな電話があったから もう自分の出番はないと美樹は 考えていた。 パートナーなら、奥様がいいに決まってるし、と。
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