372人が本棚に入れています
本棚に追加
➖あれからどれくらいの時間が過ぎたのだろうか?➖
美樹は3回コールして切れた【非通知】の着信履歴を見ながら、思い返していた。
➖8・・・、10年くらいたつのかな➖
「ねぇ!その電話って、話があるから美樹からかけてこいってことでしょ?
都合が悪ければかけなくていいけど、って。
かけなくていいの?私ならゲームしてるから、気にしないでかけていいよ」
そう言いながら下手くそなウィンクをしてみせる由里子。
「そう言っておいて、ちゃっかり聞き耳たてるくせに。まぁ、そういう意味の電話なんだけど」
昔決めたルールでかけてきたアイツ。
➖用件はなんだろう?➖
アイツとの電話には、あまりいい思い出がない。
できれば、メールだけで済ませたいと思ったが
数年ぶりの電話に、ほのかな甘さを期待する気持ちもあった。
「早くかけなよって!」
由里子にせかされ、スマホの連絡先から【非通知】の相手であろうアイツの番号をコールする美樹。
アイツ・・・の名前は田崎貴俊。
携帯からスマホに替えても、ずっと連絡先として残しておいた番号を久しぶりに見て、ドキドキする。
『はい・・・』
2回目のコールで、田崎の声がした。
ふうっと一度深呼吸をして、美樹が答える。
「もしもし?久しぶり・・・」
『お、そ、い!!』
「ぷっ!」
懐かしさを共有するセリフを言わせてもくれず、電話をかけるのが遅いと文句から始まる、相変わらずの田崎に美樹は思わず吹き出した。
そんな美樹の気持ちを推し量ることもなく、つづける田崎。
『用件を言う、来月の8日東京に行く、貴女も一緒に』
「は?え?東京?なんで?私も?どうして?」
突然の田崎の誘い(?)に戸惑い、すべて疑問形で答える美樹。
『昔、話したことあったよな?大事なパーティーにパートナーとして同伴して欲しいって。それを来月8日に実行してほしいってこと。返事は?』
大事な?パーティー?パートナー???
「あぁ!あれ?あれって冗談じゃなかったの?」
田崎の仕事は、起業家で投資家で京都では派遣会社を経営し、東京ではカフェやレストランをいくつか経営している、と聞いたことがあったなと記憶を掘り返す。
その投資のスポンサーを探すのに、あちこちのパーティーに出席していると。
そこにパートナーとして同伴してほしいと言われたことがあった。
しかし、その誘い(?)のすぐ後に、田崎は逮捕されてしまった。
証券取引法違反だった。
持っていた全部の財産を押さえられ、会社は所属していたグループに権利が奪われ、そして2ヶ月の留置。
残ったのは、京都の家だけだと言っていた。
出所したあとほどなくして連絡があったが、パーティーの話など忘れていた。
と、いうより、刑を軽くするために
『結婚するわ、相手はバツイチ子持ちしかも二つ年上だけど』
留置される直前に、そんな電話があったから
もう自分の出番はないと美樹は 考えていた。
パートナーなら、奥様がいいに決まってるし、と。
最初のコメントを投稿しよう!