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LINEは続いて
改札で田崎と別れる。
「またね」
「またな」
今度はいきなりキス、なんてことはなかった。
振り返ることもない。
出会ったばかりの頃はホームまで送ってもらったり、田崎から会いに来てくれたり、新幹線が走り出してすぐにメールしたりした。
今はもう、そんな必要はなくなった。
そういうことをしなくても、気持ちがざわつくことはない。
➖腐れ縁か、そうかも?➖
そういう田崎との関係が、心地いい。
会えば必ずホテルへ、そんな時もあった。
思い出してクスッと笑う。
➖私も貴俊も、年をとったのかなぁ?➖
新幹線は名古屋へ向かっている。
ぴこん♬
LINEが届く。
スマホを開く。
『今日の朝ごはんです』
コメントとともに、機内食らしい写真。
『今日はどちらまで?行かれるのですか?』
『アメリカです。美樹さんは仕事ですか?』
『いえ、今日は休みで出かけてました。これから帰るところです』
『そうですか、じゃお気をつけて』
『はい、榊原さんも、お気をつけて行ってきてください』
LINEを始めた頃より、会話としてなりたつようなやり取りになっていた。
美樹も少しずつ、自分の話をLINEで榊原に伝えていた。
『いま、こんな仕事をしてて忙しいです』
『これは難しいです』
そんなLINEをすると
『時間は作るものです』
『やりもしないで難しいと決めつけるのは浅はかです』
そんな返事が返ってくる。
なぜだか甘やかしてはくれない、そんな感じの文面だがそれは美樹にとっては面白かった。
『もう少しレベルをあげましょう』
『これは宿題です、完全に正解するまで許しません』
なんだかスパルタ塾講師みたいなときもある。
完全に正解するまで、まる2日かかったが
解けたときはうれしかった。
榊原からのLINEが届くと、美樹はそちらに集中してしまう。
また田崎のことは忘れている。
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