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理由
コーヒーを淹れ、会議室に戻る。
「今のところ、順調ですね」
林が言う。
「そうみたいだね、よかった」
美樹は林に答えながら頰を押さえた。
➖ほてってるんじゃないかな?赤くなってないかな?➖
「どうしたんですか?美樹さん」
「え?あ、なんか暑いなぁと思って」
林に気づかれたんじゃないかとドキリとする。
たかが頭を撫でられたくらいで、何故こんなにドキドキするのだろうか、自分でもわからなかった。
会社の中だから?
偉い人だから?
好きだから?
どれも違う気がする。
【わからないから?】
わからないからかもしれない。
榊原という男の人間性をつかみきれてないからかもしれないと思った。
社長の話では、とても頭がいい人。
4か国語が話せるとか、何かの研究者でもあるとか。
それから、最近聞いた話ではワンマンなところがあるとか。
どれも、LINEのやりとりだけではわからないことばかりだ。
➖そういえば、正確な年齢やどこに住んでいるのかも知らないわ➖
東京でもらった名刺には、勤め先が書いてあるだけだし。
どこに住んでいたとしてもLINEもパソコンメールもできるから関係ない。
家族のことも何も知らない。
特に知りたいとも思わなかったから、聞いてもいなかった。
ただ、LINEのやりとりで、榊原が今どこにいて何をしているか?
何を感じて何を考えているか?
それが知りたいだけだ。
榊原も、美樹に対して個人的なことは何も聞いてこなかった。
家族は?とか、年齢は?とか。
聞かれたら答えたかもしれないが、そうすると榊原に対しての興味が薄れただろう。
その人を形作る環境は、その人に対する興味とは関係ないのだ。
そういう美樹も、若い頃はいろんなことを知りたがった。
好きな食べ物から好きなテレビ番組、過去の恋愛とか年収とか。
そしてその人のことを好きかどうか判断していたような気がする。
今は違う。
その人だけ!を知りたいと思う。
家族とか過去の恋愛とか年収とか、多分知らなくていい。
知っても何も変わらないかもしれないが、知る必要はない。
【興味は好意の始まり】
榊原さんも私個人に興味を持ってくれてるのだろうか?
そこだけは、確認したくなった。
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