理由

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➖そういえば、誰かに頭を撫でてもらって褒めてもらったことなんて、他にあったっけ?➖ 褒めてもらったとしても、頭を撫でられたことはない。 少なくとも、大人になってからは記憶にない。 あるとしたら、とても小さい子どもの頃のような気がする。 ➖うわぁ、貴重な体験だ!➖ そう思ったら、また興奮(?)してきた。 ➖どういう意味なんだろう?➖ 榊原のことだからきっと、特に意味はないのかもしれない。 単純に【褒めた】だけかもしれない。 ➖漫画やドラマでは【頭なでなで】なんてよくきくけど、実際に私なんかの頭を撫でてくれる人がいるなんて、感激でしかない➖ 思い出して背中のあたりがさわさわするような、ゾクゾクするようなうかれた気分になる。 そんなことを考えながらも、会議は進んでいた。 「では、さらにこの点を改善していただき、次回までにある程度の形にしておいてください。 次回は、予定では1カ月後、詳しい日時はまた連絡します」 とくにもつれたりすることもなく、すんなりと終わった。 しっかり準備していた甲斐があったと自己満足する美樹。 それにしても。 『よく頑張っていますね』 もっとしっかり、榊原の声を聞いておけばよかったと思った。 もっとしっかり榊原の手の感触を感じておけばよかったと思った。 なんだか初恋のようだ。 「では、また」 社長の合図で打ち合わせは解散となった。 「「「お疲れ様でした」」」 「「お疲れ様でした」」 榊原はグループメンバーにもきちんと頭を下げている。 隣の加藤は、さらりと会釈だけで外に出て行く。 ぱっと見、加藤の方が上司のようだ。 書類をまとめて会議室をあとにする美樹。 会議室のドアの外で、何人かが立ち止まって何かを探していた。 「どうしたんですか?」 美樹がその1人に声をかけた。 「なんかね、榊原さんがさっきここで大事なものを落としてしまったらしくて」 林にネックレスをつけてもらっている現場を見られて、バッグを落としたときだろう。 「大事なものって何?」 美樹も気になった。 「あ、もう大丈夫です。ぼくの勘違いかもしれませんので。みなさん、お騒がせいたしました」 榊原は帰ろうとしていた。 「いいんですか?」 「はい、もしかしたら、ここで落としたのではないかもしれませんので。ではまた次回よろしくお願いしますね」 そう言うと帰っていった。 「大事なものってなんだろ?」 誰も知らなかった。
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