落し物

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落し物

次の日。 「おはようございます」 「おはよう!」 それぞれが出勤して仕事にかかる。 「昨日は無事に終わってよかったですね?」 林が声をかけてきた。 「うん、でもまだまだ気が抜けないけどね」 ➖また頑張ってやったら【頭ナデナデ】してもらえるのかなぁ?➖ よし!と気合いが入った。 「?」 パソコンに向かおうとしたとき、部屋の隅の伝言板に『落し物』があると書いてあった。 ホワイトボードに矢印がかかれ、矢印の先にマグネットでとめられた、ぬいぐるみが見えた。 近づいてみる。 手のひらほどのクマのぬいぐるみだった。 「それ、美樹さんの?」 通りがかりの同僚に聞かれた。 「ううん、違うけど。可愛いなと思って」 「誰のだろうね?わりと大きなぬいぐるみだし、落としたら気づくと思うんだけど。それ、あれだよね?LINEのやつ、なんだっけ、ブラウン?」 「あ、そうそう、ブラウンだ」 以前、榊原からの写真でブラウンのサンタが送られてきたことを思い出した。 くるりと回し、ぬいぐるみのクビに付いているタグを見た。 【Brownny】 「あっ!!」 ピン、ときた。 「ごめん、これの持ち主、わかったかも?だから、本人に確認してみるね」 「ほんと?そうしてあげて、意外と大事なものかもしれないし」 美樹はぬいぐるみをはずし、机に戻る。 『おはようございます。 昨日はお疲れ様でした。それから、頭を撫でてもらってうれしかったです。 おかげでさらにやる気が出ました。 話はかわりますが 榊原さんにお聞きしたいことがあるのですが』 ぴこん♬ 『おはようございます。昨日はお疲れ様でした。 聞きたいこととはなんでしょうか?』 ➖頭ナデナデのことは、スルーされたみたい➖ ちょっとがっかりした。 やはり榊原にとっては、とくに意味のないことだったのかもしれない。 違う違う、その話はあとにして。 『もしかして、なんですが。榊原さんが昨日落とした大事なものはこれですか?』 カシャ!とBrownnyの写真を添える。 ぴこん♬ 『それです!』 ぴこん♬ 『よかった!あったんですね』 ぴこん♬ 『次回そちらに伺うまで、預かっていてもらえませんか?』 立て続けに3通のLINEが送られてきた。 初めてのことだった。 よほど大事なものだったのだろう。 『わかりました。私が責任をもって預かっておきますね』 ぴこん♬ 『ありがとうございます。お手数をおかけします』 Brownnyがぺこりとお辞儀をしているスタンプも送られてきた。 ➖やっぱり、榊原さんのぬいぐるみだったんだ➖ 耳の先に付いていたホコリを払って、大切に机の上に置いた。 「あ、どうだった?持ち主わかった?」 さっきの同僚が聞いてきた。 「うん、合ってた」 「誰の?」 「え?っと・・・さ、坂本さん、少し前にここにきた業者さん!」 なんだか、榊原のものだとは言えなかった。 秘密にしておきたかった。 「そんな人いたっけ?」 「あ、私しか対応してないからわからないかな?」 ごまかした。 1カ月先に榊原が来るまで預かることになった、 Brownny 。 榊原がこれを大事にしていることは、意外と言えば意外だが不思議と違和感はなかった。 どういうわけか ➖やっぱり榊原さんのBrownnyだった➖ と納得した美樹だった。
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