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榊原の方針を自分だけが知っているという、どこかうれしい秘密が、美樹をそわそわさせた。
職場では、特に変わらず日々の仕事に追われていた。
「美樹さん、この前のデータをまとめて加藤さんに送っておいて」
「わかりました、やっておきます」
実験結果を表にまとめるのも、だいぶ慣れてきた。
それにしても。
本当に加藤をはずすのだろうか?
榊原という人間は、まさかそんな冗談を言う人ではないということはわかっている。
でも、まだ誰も加藤のことについては話していない。
榊原から『加藤をはずす』と聞いて、4日目の朝。
社長から美樹に電話があった。
『大変なことになった、加藤さんがうちの担当からはずされた!!』
➖きた!➖
「え?どういうことなんですか?なんで?」
『理由はわからない、なんかいきなりはずされたっぽい』
「誰から聞いたの?」
『さっき榊原さんから直接電話があって、加藤をはずす、これからは自分が直接指揮するって言われた。理由は言ってなかった』
「そうなんだ・・・なにがあったんだろ?」
理由は、美樹もきかされていない。
『まだ、加藤さんからは何も聞いてないから、こっちからはまだ聞かないでおく、まぁ上の会社の人事に口出せないし、榊原さんの性格上一度はずすって言ったら絶対撤回しないのはわかってるから』
「榊原さんって、そんな人なの?」
美樹は聞いてみた。
『実は、加藤さんは昔から仕事の関係で知ってたんだけど、その上司が頑固というかわがままというか、部下はやってられないって聞いてて。
それがあの榊原って上司だと、最近知った。
ちょうど今の仕事を受けるかどうか?の時期。
あ、ほらロボット展の少し前』
「もしかして、だから最初に榊原さんがうちに来た時、ロボット展で会ってたのに初対面っぽい顔してたの?」
『それもあるけど、向こうも記憶してなかったみたいだし』
➖そういえばそうだった、榊原さんも忘れてたのかな?➖
『そんなことはいいけど、これから加藤さんがいないとなるとやりにくくなるなぁ』
ため息混じりに社長が言う。
「大丈夫じゃない?榊原さんってそんなに難しい人には思えないけど?」
LINEのやりとりでは、社長や加藤が言うような人間には見えなかった。
『そうだといいけど・・・』
「大丈夫だって!」
不安そうな社長に、強気で美樹が答えた。
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