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大バカもの
加藤が外されたという知らせは、美樹のグループにも知れ渡った。
理由は誰もわからないが、おおかた、榊原の気まぐれだろうみたいなことで決着がついていた。
『これからは榊原さんが直接指揮する』
これだけは事実のようで、簡単に部下をはずすということをやってのける人の下で働くということが、多少なりともみんなの緊張を高めた。
予定ではまだ加藤が来社することになっている。
その加藤からは、はずされたという連絡はまだない。
「大企業過ぎて、人事の通達がうまくいってないんじゃないのか?」
社長はそんなことを言っていた。
美樹のもとにも、榊原からのLINEは途絶えたままだ。
何かトラブルがあったことは確実だが、それを榊原本人にLINEで質問するのは、はばかられた。
その3日後。
予定通りに加藤がやってきた。
会議室でみんなが出迎える。
「「「おはようございます」」」
「おはようございます」
席に着く。
みんなが加藤を注視する中、加藤が話し始めた。
「実はね、私、この担当からはずされました。
先日、榊原さんからメールで貴方は不用ですと言われました」
ざわざわしだす。
「メールで、ですか?」
社長が聞く。
「そうです、仕事のやりとりをしてたら、いきなりですよ、不用ですって」
「どんなやりとりを?」
「この前の装置の実験結果のことです。私、前に榊原さんに確認とったはずなんですよ、これでやってみますって。
なのに実際やった報告をしたら、こんなことをする前にもっとやることがあるでしょ!アプローチの仕方が間違ってますとかなんとか言われて」
加藤の語気がだんだん強くなる。
理不尽な榊原からの仕打ちに怒っているようだ。
➖やっぱり、榊原さんの意図する方向と違ってたんだ➖
あの時、もっと確認して止めておけばよかったと後悔した。
仕事の段取りをしてうまく進めてくださいと言われていたのに。
それにしても、加藤はよほど腹の虫がおさまらなかったらしく
「ちょっとこれ、見てください、そのメールのやりとりを全部プリントアウトしてきました。私、何かおかしなこと言ってますか?メールで」
社長がその数枚のA4コピー用紙を見ていた。
「なんでだろ?ここなんて冗談も言ってるみたいなのに、え?ここでいきなり?ご乱心だな」
「本当にご乱心。でも、前々からそういう噂はあったからね、来るべき時が来たって思ったけど」
「噂?」
誰かが聞いた。
「そう、こんなふうに突然はずされたり、自分が決定したことなのに失敗したらその場の部下をとことん叱り倒す、でその部下は鬱になって・・・」
「鬱?」
さらにざわつく。
「その1人は、私も知っていまして早速連絡しましたよ、私にも赤紙が届きましたって」
「赤紙?」
「戦争中の兵隊さんの招集令状のことだよ」
誰かが誰かに説明していた。
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