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瑠美と私は小学生からの付き合いで、家も近かったから毎日の登下校もずっと一緒だった。
そのうち、私たちの間で始まったのが『もしもゲーム』だ。
朝登校するときに、どちらかが「もしもこうなったらどうする?」と話し始める。
例えば、大人になって二人暮らしをするなら役割分担はどうする? とか、学校をサボって遊びに行くならどこがいい? とか。一生お金がなくならない財布を手に入れたらどうする? とか。そんな他愛もないことを、私たちは真剣に話し合う。
朝は、こうだったらいいな、ああしようね、と希望ばっかり膨れあがるのに、一日考えたあとの帰り道では二人とも冷静になって、ケンカをしたとき気まずいから一緒に住むのはやめて隣同士の部屋を借りよう、なんて現実的な結論に辿り着くのも面白かった。
瑠美はこのゲームが大好きだった。
大きくなるにつれて『もしもゲーム』をやる回数は減っていったけれど、今でも瑠美はときどき「ねぇ、もし――」と話し掛けてくる。
修二くんとも『もしもゲーム』をやっているんだろうか。想像すると何だかちょっと嫌な気分になった。あれは私と瑠美の秘密の楽しみなのに。
瑠美との間で減ってしまったのは『もしもゲーム』だけじゃない。修二くんと付き合ってから、学校から一緒に帰ること、瑠美が私の部屋に来ること、私が瑠美の部屋に行くこと、メールのやり取りや電話の回数。いろんなものが減っていった。
私にも彼氏がいたら気にならないのかもしれないけど。私が隼斗くんに告白しようと決意したのは、そのせいでもあった。
メールの着信音が鳴って、瑠美が携帯電話を取り出す。
「修二くんから?」
「うん。明日一緒に勉強しない? って。二人とも、この間の模試の結果悪くてさぁ」
瑠美が素早く指を動かしながら言った。しゃらりとキラキラした赤いハート型のストラップが揺れる。
「あれ、ストラップ変えたの?」
へへ、と瑠美が照れくさそうな笑顔でピンときた。
「じ、つ、はー」
「はいはい、修二くんからのプレゼントね」
「そうなのー! 付き合って一年目の記念日だからって。めっちゃ可愛くない? 修二ってセンスいいんだよねー」
この間まで、私とお揃いのローズクォーツのストラップを「親友の証!」とか言って着けてたくせに。瑠美が帰ったら私もストラップを変えてやろう。
ニヤニヤと携帯電話を見つめる瑠美にちょっとだけイラッとする。そうだ、と思いついて声を掛けた。たまには私からゲームを仕掛けてやろう。とびきり意地悪なやつ。
「ねぇ瑠美」
「んー?」
「もしもさ、修二くんが瑠美より先に死んじゃったらどうする?」
「えー、何それ」
「もしもだよ。もしも」
「うーん。そうだなぁ――あー、ムリムリ。耐えらんない! 寂しくて私も死んじゃうかも! 一緒に死んじゃいたいくらいだもん」
「他の人と付き合ったら忘れちゃうんじゃない?」
「ムリだよー。だって修二くんが一番好きだもん。他の人なんて考えられないよぉ」
瑠美は泣きそうな顔をしていた。ちょっとやり過ぎたかな。反省して、優しく微笑んでみせる。
「今の、修二くんが聞いたら、もっと瑠美のこと好きになるね」
そう言うと、瑠美は嬉しそうに笑った。
私の「もしも」は、ちょっとだけ現実を侵食した。
この三日後に瑠美は交通事故にあって、そしてそのままびっくりするくらいあっさりと死んでしまったのだ。
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