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瑠美の存在は、まるでかんなで薄く削り取られるみたいにして、少しずつ消えていった。
時間は流れるもの。人は忘れるもの。
分かってはいるけど、こうも目の当たりにすると恐ろしさを感じる。
あの事故からしばらくの間、花が飾られた瑠美の机には、まるで結界でも張られているみたいに誰も近付かなかったのに、今じゃ花も飾られなくなって、休み時間には腰掛けてバカ話をする男子がいたり、みんなのマンガや雑誌、化粧品なんかの隠し場所にされたりしている。
先生もうすうす気付いているみたいだから、冬休みが明けたらきっと瑠美の机は撤去されているだろう。
私だってそうだ。
瑠美が死んでからずっと、目のかたちがおかしくなるんじゃないかってくらい、毎日泣いた。もう一生笑うことなんかできないって思った。
だけど、いつの間にか涙は止まって、笑うようになって、ご飯も食べて、お菓子だってケーキだって食べて、他の友達と遊びに行くようになった。隼斗くんも一緒で、相変わらずカッコいいなって思った。話し掛けられてドキドキもした。
ちょっとずつ「いつもどおり」に戻っていく。
昨日の夜、隼斗くんのマフラーが編み上がった。モスグリーンに白と黒のラインが入った、ちょっと大人っぽいやつ。きっと隼斗くんによく似合うはずだ。
綺麗にラッピングもしたし、今日こそ告白しよう。
明後日からは冬休み。もしオッケーしてもらえたら、クリスマスデートできるかも。初詣だって誘われるかもしれない。あー、でもお互い受験生だからな。あんまりゆっくりできないかも。まあ仕方ない。
「ねぇねぇ! 大ニュース大ニュース!」
クラスの女子が叫びながら教室に飛び込んでくる。何事かと、教室にいた全員の視線がその子に集中した。
「隼斗くんと四組の沢田さん、付き合ってたんだって!」
えー! とか、まじかよ! とか、さまざまな声が上がる。
四組の沢田さんとは、二年生のときに東京から転校してきた女の子で、私たちとは全然違う都会の空気をまとった綺麗な子だった。しかもお金持ちのお嬢様らしく、さり気なくブランドもののハンカチや靴下を身につけている。成績もいいし性格もいい。妬む気にすらなれない完璧な子。
そんな騒ぎのなか、隼斗くんが教室に入ってきた。首元には柔らかそうな、そして高級そうな黒のマフラーをしている。
ヒューヒューとはやし立てる声に少し照れくさそうにしている隼斗くんは、やっぱりとってもカッコいい。黒のマフラーも、すごく似合ってる。
「あのマフラー、沢田さんからのプレゼントなんだろうね。沢田さんも色違いのやつ巻いてたし。あれ、沙耶香、それなに?」
クラスメートが、私が握りしめた紙袋を指差して聞いた。
「なんでもない。それより冬休みはやっぱり勉強? 初詣くらいみんなで行こうよ」
そう言いながら、紙袋をさり気なくロッカーの奥に押し込んだ。
私が隼斗くんのことを好きだって知っているのは瑠美だけ。瑠美がいたら、きっと慰めてくれたのに。なんでいなくなっちゃったのよ、瑠美。
家に帰ってから、私は久し振りに泣いた。そして、その理由を瑠美のせいにした。
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