悪意をまいて

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 冬休みが終わり、受験も終わった。そして、今日は卒業式。  志望大学に無事合格し、家を出てひとり暮らしをすることになっていた私は、夢と希望でいっぱいだった。  だけど式のあと、隼斗くんと沢田さんがツーショットの写真を撮っているところを見て、そんなものはしおしおと萎んでしまった。  二人は同じ大学に行くんだって。沢田さん、隼斗くんに毎日勉強教えてたんだって。隼斗くん、沢田さんの両親にも気に入られて、家に泊まったこともあるらしいよ。もしかしたら、これから一緒に住むんじゃない?  聞きたくもないのに、いろんな噂が耳に入ってきた。 もうどうだっていい。勝手にすれば? 隼斗くんなんて、ちょっとカッコいいなって思っただけで、別に本気で好きだったわけじゃないし。 「忘れ物するなよー! 私物は全部持ち帰るように!」  先生がそう叫びながら、廊下を歩いていく。机が空っぽなのを確認して教室を出ようとすると、 「沙耶香ー! ロッカーに何か残ってるよ!」  と、呼び止められた。のぞき込むと、そこにあったのはひしゃげた紙袋。思わず「げっ」と声が出た。忘れてた。  これを持ち帰らなくちゃいけないなんて最悪。でも、捨てていって誰かに見られるのも最悪。  まるで汚いものでも摘まむみたいにして紙袋を持つ。ちらりと中を見ると、鮮やかなモスグリーンがのぞく。あんなに綺麗だと思った色なのに、今はものすごく腹立たしい。  仕方ない。家に帰って捨てよう。  その紙袋と中に入ったマフラーは、卒業証書よりも圧倒的な存在感で、置きっ放しにしていた教科書よりもすごく重かった。  靴を履き替えて校舎の外に出ると下級生が見送りの列を作って待っていた。笑顔と拍手で卒業生たちを送っている。  ――え、今からあそこを通って帰るの? これを持って? ホント最悪!  みんなが私を笑ってるように見えた。私と、このマフラーを。みんなでバカにして大笑いしているんだって。  逃げるように列の間を抜けて、ようやく校門を出た。早く帰りたいのに、いろいろと話し掛けてくる人が多くて、なかなか帰れない。もう、いい加減にしてよ!!  イライラして思わず声を上げそうになったとき、下級生たちの列からワッと歓声が上がった。  振り返ると、隼斗くんと沢田さんが手を繋いで歩いていた。二人は笑顔を浮かべて、堂々と列の間を歩いてくる。拍手が一段と高くなった。まるで結婚式でも見せられてるみたいだった。  ――最悪。なんで高校生活の最後にこんな目にあわなくちゃいけないの?  二人から目をそらした先に、修二くんがいた。
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