3人が本棚に入れています
本棚に追加
声を掛けようと思った。修二くんだって瑠美がいなくなったから、きっと寂しいはずだ。
すると、私より先に下級生の女の子が修二くんに話し掛けた。すごく恥ずかしそうにしている。
修二くんは一瞬驚いた顔をしたが、にっこり笑うと制服のボタンをひとつ取って、その子にあげた。そして、携帯電話を取り出すとメールアドレスの交換を始める。
女の子はぺこりと頭を下げると、携帯電話を宝物のように胸に抱いて見送りの列に戻っていった。
修二くんは、私に気付くと笑って近付いてきた。その笑顔がどこか勝ち誇ったように見えた。お前とは違うんだぞって、そう言ってるみたいに。
「あの子、サッカー部のマネージャーでさ。ビックリした」
「そうなんだ」
私は持っていた紙袋を修二くんの鼻先に突きつけた。
「え、なに?」
中からマフラーを取り出して、修二くんは戸惑った表情を浮かべる。
「これ、瑠美が編んだの」
私がそう言うと、修二くんは少し青ざめたように見えた。
「修二くんのクリスマスプレゼントにするんだって一生懸命編んでた。みんなには秘密だからって私の部屋でね。瑠美があんなことになっちゃって、すっかり渡すの忘れてたんだけど、これは瑠美が修二くんのために編んだものだから、ちゃんと渡すね」
考えていたわけじゃないのに、つらつらと言葉が出てきた。修二くんの顔が強ばっていくにつれて、私のイライラも消えていく。
「瑠美ね、言ってた。もし修二くんが自分より先に死んじゃったら耐えられない。もしかしたら後を追っちゃうかもって。たとえそうしなかったとしても、もう誰とも付き合ったりしない。修二くんのことが大好きだからって」
でも、と私は続けた。クライマックスだ。彼を一番傷付ける言葉を選ばなくちゃ。
「修二くんは、瑠美のことなんてどうでもいいんだね」
ひゅっと息を飲む音が聞こえた。私の胸の中に溜っていたものがそのまま吸い取られたような気がした。
「そのマフラー、いらなかったら自分で捨ててよ。それくらいの責任感はあるでしょ? じゃあね」
言い終えると体が軽くなった。心からの笑顔を浮かべて、私は修二くんに手を振った。
高校生活はもう終わり。これからは新しい生活が始まるんだ!
歩き出した私は、二度と振り返らなかった。
最初のコメントを投稿しよう!