悪意をまいて

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沙耶香(さやか)って器用だよね、羨ましい」  瑠美(るみ)がベッドの上でスナック菓子を頬ばりながら、私の編んでいるマフラーに手を伸ばしてくる。 「ちょっと、汚れた手で触らないでよ。大事なプレゼントなんだから」 「はいはい。告白成功の必須アイテムだっけ? そんなの信じちゃうなんて沙耶香も乙女だねぇ」 「バカにするなら帰れ」 「してないって。可愛いなって思うよ。でもさー、まだ九月だよ。早くない?」 「今から編まないと間に合わないでしょ。十二月なんてすぐなんだから。それに、受験勉強もあるし」  先月のファッション雑誌で特集された星座占いで、私の恋愛運のキーアイテムは『手編みのマフラー』だった。  高校生活最後の冬休み前に、私は入学してからずっと片想いし続けていた同じクラスの隼斗(はやと)くんに告白すると決めていた。  仲だって悪くないし、毎日(ってわけじゃないけど)話もするし、(二人きりじゃないけど)一緒に遊びに行ったりもする。  成功率はけして低くないはず、と自分に言い聞かせるのだけど、やっぱりどこかに縋りたくなってしまう。それが人類をたった十二のカテゴリーに分けただけの星座占いだとしても。  それに、手編みのマフラーって想いを伝えるのにはおあつらえ向きだ。一目一目、隼斗くんのことを考えながら編んでいく。その作業こそ、気持ちの大きさを証明するものではないか。  モスグリーンの毛糸をたぐり寄せながら、そんなことを考える。 「ねぇねぇ、もし告白オッケーされたらどうする?」 「そうだなぁ、瑠美と修二(しゅうじ)くんと一緒にデートしようかな」 「あー、それいい!」  瑠美には一年前から付き合っている彼氏がいた。隣のクラスの修二くん。 隼斗くんと同じサッカー部だけど、修二くんは補欠で隼斗くんはスタメン。瑠美には絶対言わないけど、顔だって隼斗くんのほうがカッコいいし。 「四人で行くならどこがいいかな。大学生になってるし、ちょっと遠くまで旅行とかもいいね」  瑠美はさっそく旅行雑誌を取り出してページをめくり始めた。まるで自分の部屋みたいだなと、その振る舞いを見て思う。まぁ、黙っててくれたほうがこっちも作業が捗るし、ちょうどいい。
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