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話しながら順調に抽出されていくコーヒーから、心を穏やかにする癒しの香りが漂う。
「だってさ……優子さん、俺が今より不細工になっても、同じように好きでいられる?」
その質問を不思議に思って、再び顔を上げた。
そこには“不細工”という言葉からはほど遠い、美術品のように完成された美しい顔があって、瞳に少しの不安を覗かせている。
どうやら冗談ではないらしい。私が感じているような不安を、亮弥くんも感じている。それに気づいて少し驚いた。
そんなことで気持ちが変わるなんてあり得ないのにな。
そう思って、はっと気づく。亮弥くんの私に対する気持ちも、これと同じなんだと。
「亮弥くんの中身が変わってしまわない限り、亮弥くんの美しさは変わらないよ。外見が衰えても、美しさは衰えない。だから安心して年を取っていいよ」
「嫌いにならない?」
「もちろん。なるわけないよ」
そう答えて頭をよしよしすると、亮弥くんはホッとしたように表情を緩めた。
「でも亮弥くんの顔も体型も好きだから、努力はしてくれたら嬉しいな」
そう付け加えると、亮弥くんは心なしか嬉しそうに笑って、「努力します」と言った。
ミニテーブルをベッドサイドに移動させてコーヒーを置き、ベッドの定位置に並んで座った。ここで二人でくつろいでいる時間は、何も特別なことがなくてもそれだけで私を幸せにしてくれる。
のんびりとコーヒーを飲みながら、亮弥くんが話し始めた。
「引っ越しも本当は、優子さんの仕事が始まる前にできた方がいいよね……」
「そうだねぇ……。一応物件は早めに探しに行ってみる?」
「え、まじでそのスピード感でいいの?」
自分で言い出しておきながら、亮弥くんはびっくりした顔でこちらを見る。
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